"「実の親じゃない」と夫に言われた日" 第5話
野からのい封筒
週がけた曜の午、郵便受けに野県からの封筒が届いていました。
差は、野県農業拓陽。全寮制の特別推薦入試を実施している公でした。
くていその封筒の表には、美咲の丸っこい文字で宛名がかれた返信用封筒が使われており、央には「第次類選考結果通」と朱きのスタンプが押されていました。
私はその封筒をけず、リビングのチェストのに置きました。
夕方、部活を引退してしく帰宅した美咲は、玄関で靴を脱ぐなりチェストのに線をらせました。
「……届いてたんだ」
美咲はさく呟き、乱暴にコートを脱ぎ散らかすこともなく、震える指先で封筒を取りげました。
ペーパーナイフを使わず、慎に端から指を入れて封を裂きます。から取りされた枚の更。そこに印刷されていた文字を、美咲は息を止めて見つめていました。
「……通った」
絞りすような声でした。
第次の調査選考の通過。そして、週に現でわれる「本および保護者同席による最終面談」への案内票が入っていました。
「美咲」
私が背から声をかけると、美咲はびくっと肩をねさせ、通を胸元に隠すようにして振り返りました。
その瞳には、格したびよりも、これから始まるたちとの衝突を予期したような、怯えと張りが混じっていました。
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「……真紀さん。これ、お父さんに言わなきゃダメだよね」
「ええ。保護者同席の面談があるなら、浩司さんに話さないわけにはいかないわ」
私が静かに答えると、美咲は唇を噛み、通をつ折りにしてポケットにねじ込みました。
そのの夜、浩司が帰宅したのは午を回った頃でした。
回りから戻ってきた浩司の顔には、隠しきれない苛ちと疲労が滲んでいました。彼はコートをソファに放りすなり、ネクタイを緩めながら吐き捨てるように言いました。
「まったく、話にならん」
私はキッチンからお茶を運びながら、浩司の顔を見ました。
「学へってきたんですか?」
「ああ、ってきたよ。仕事を抜けてわざわざ美咲の学までな。あの髙とかいう担任に直接談判してきたんだ。親に無断で提された願なんて無効だろう、今すぐ推薦を取りげろってな」
浩司はされたお茶を気に呷り、荒々しく湯呑みをテーブルに叩きつけました。
「そしたらあの担任、何て言ったとう? 『自己推薦枠は徒本のい志に基づいて願された公な続きです。保護者の方のお気持ちは分かりますが、ご庭内で分にお話しいをされ、ご本が納得して辞退届をさない限り、学側から方に取り消すことはできません』だとさ! のガキの儘を真に受けて、親の監督責任を何だとってるんだ!」
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浩司の言い分は、世般の父親としては見もっともらしく聞こえました。
けれど、私には分かっていました。彼が本当にっているのは、美咲の将来を配してのことではありません。
自分が信じて疑わなかった「父親としての絶対な決定権」を、娘と学の双方からあっさりと無された屈辱に耐えられないだけでした。
「美咲はどこだ」
「階の部にいます。類選考、通ったみたいですよ」
私が告げると、浩司の顔から表がすっと抜け落ちました。
「……通った? 受かったのか、あの野の学に?」
「次選考です。週に、保護者同席の最終面談があるそうです」
浩司はを抱え、ソファにく沈み込みました。
彼がので何を計算しているのか、連れ添った私にはにとるように分かりました。
学へ力尽くで乗り込んでもダメだった。美咲を鳴りつけても、あの夜のように「絶対に嫌」と突っぱねられるだけだ。このままでは本当に、週に娘が野の面接へってしまう。
浩司はしばらくの、井を見つめて爪を噛んでいました。
そして、やがて何かを決したように体を起こすと、これまで見たこともないような、頼りなげで湿り気を帯びた目を私に向けてきたのです。
「……真紀」
「何ですか」
「頼む。おから美咲に言ってくれないか」
その声を聞いた瞬、私の背筋をすっとたいが通り抜けました。
「美咲はおの言うことなら聞くだろう。毎飯を作ってもらって、番くで世話になってるんだからさ。おから『お父さんの言う通り、元のにしなさい』って言ってやってくれよ。母親からそう言われれば、あいつもを張るのをやめるはずだ」
私は元に持っていたお盆を、胸のでく抱きしめました。
爪の先がくなるほど、のお盆の縁にい込みました。
ヶの景が、鮮やかに蘇りました。
ネイビーのジャケットを着て、面談にこうとしていた私に向かって、靴を履きながら彼が放った言葉。
『おは来なくていいよ。やっぱりこういうな決定は、血の繋がった父親の俺が責任を持ってやるべきだとうんだ。お、応……実の母親じゃないしな』
あの、彼は私から「母親」の資格を平然と奪いました。
それなのに、自分の権威が通用しなくなり、沼の説得を引き受けるのが怖くなった途端、今度は私に「母親の役割」を押し付けようとしている。
都のいいだけ母親に仕てげられ、都の悪いだけ部者として排除される。
この、私が無識のうちにみ込み続けてきた理尽の正体が、目ので剥きしになっていました。
「お断りします」
私は静かに、けれど迷いのない声で答えました。
浩司が驚いたように目を見張りました。
「……は? お、何言ってるんだよ」
「これは、浩司さんと美咲が決めるべきです。ヶ、浩司さんご自がそう仰いました。『な決定は、血の繋がった父親が責任を持ってやるべきだ』と」
「それは……あのはそう言ったかもしれないが、今は状況が違うだろうが!」
「違はありません。美咲は自分ので、自分で集めた報で、あの学を選びました。父親であるあなたが度も話を聞こうとしなかった結果です。それを、自分のを汚したくないからと私を使って諦めさせようとするのは、卑怯です」
「真紀!」
浩司が鳴り声をげ、ちがろうとしました。
ですが、私は線を逸らしませんでした。
「私は、美咲の選択を潰すための具にはなりません」
それだけを言い残し、私はリビングをにしました。
背で浩司が激しく舌打ちをする音が聞こえましたが、私の取りに迷いはありませんでした。