"「実の親じゃない」と夫に言われた日" 第4話
秒もいたくない
「絶対に嫌」
美咲は突きされた受話器を、い力で払いのけました。
カチャリと受話器がサイドボードから滑り落ち、保留音のメロディが無質にリビングに鳴り響きました。
浩司が目を見張り、信じられないものを見るような顔で娘を睨みつけました。
「お……父親に向かってその態度は何だ! 誰の許を得てそんな勝な真似をしたんだ!」
「お父さんが、何も見てなかったんでしょう!」
美咲の声が、初めて裂けるように響きました。
いつもを押し殺してうつむいていた歳の女のから、堰を切ったように言葉が溢れしました。
「机のに置いてあったじゃん! 学からのも、志望のアンケートも、全部お父さんの机のにずっと置いてあったじゃん! 通もけてなかったくせに! 締め切りがいつかもらなかったくせに!」
浩司の息が止まりました。
「それは……仕事が忙しかったからで……」
「印鑑だって、お父さんの引きしにあったのを私が勝に押したよ! 悪かったとってるよ! でも、そうでもしなきゃ、私のなんて誰も見てくれないじゃない!」
美咲の両が、パーカーのポケットのでわなわなと震えていました。
浩司は図を突かれ、言葉を失いました。けれど、培ってきた父親としてのプライドが、彼に素直な謝罪を許しませんでした。
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「だからって、なんで野なんだ! なんでわざわざ、をてくの寮にかなきゃならないんだよ! このから通える学で分だろうが!」
浩司が必に娘を丸め込もうと声を張りげました。
その問いに対して、美咲はふっと力を抜いたように元を歪めました。
え切った、絶望な笑みでした。
「……このに、もう秒もいたくないから」
リビングのすべての音が消えりました。
に落ちた受話器から流れる保留音だけが、さく響いていました。
「美咲……?」
私が歩踏みそうとした瞬、美咲は私の方を見ることなく、を翻して階段を駆けがっていきました。
ドタドタと荒い音が響き、階でバタンと激しくドアが閉まりました。
ガチャリと、内側から鍵がかけられる音が、ここまで届きました。
リビングに残されたのは、私と、に落ちた受話器を見つめたままち尽くす浩司のだけでした。
浩司は荒い息を吐きながら、刻みに震えていました。
自分のい通りにならなかったことへの苛ちと、娘から突きつけられた拒絶への混乱が、彼の顔を歪めていました。
そして次の瞬、浩司はゆっくりと首を巡らせ、私の方を見ました。
その目を見た瞬、私の背筋にたいものがりました。
それは、反省のなど微もない、責任転嫁の目でした。
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「……おか?」
浩司のから、く濁った声が漏れました。
「……何がですか?」
「おが美咲に何か吹き込んだのか? それとも、おがで美咲にたく当たってたから、あいつがこのから逃げそうとしたんじゃないのか?!」
私の胸の奥で、カチリと何かが凍りつく音がしました。
ヶ、「実の母親じゃないから」と私を面談から締めした男が。
学の類を切見ず、娘のSOSを完全に無し続けた男が。
いざ事態が破綻した瞬、真っ先に私を「悪者」に仕てげようとしていました。
「私は何も吹き込んでいません」
私はタンクをゆっくりとに置き、まっすぐに浩司の目を見据えて言いました。
「学からのはすべて、あなたにお渡ししていました。美咲のは父親が決めるのだと、あなたが仰ったからです」
「だからって、ここまで放置する奴があるか! お、美咲がくにっても平気なのかよ! 母親なら、普通止めるだろうが!」
浩司は都のいいだけ、私を「母親」という枠のに引きずり込もうと叫びました。
私は何も答えませんでした。反論する価値すらじられなかったからです。
保留音を鳴らし続ける話にづき、受話器を拾いげてに当てました。
「もしもし、髙先。夜分遅くに申し訳ありません。母の神です……ええ、願の件、確認いたしました。
し庭内で話しいますので、、改めてこちらからご連絡させていただけますでしょうか」
静にそれだけを伝えて通話を切ると、浩司はを抱えてソファに座り込みました。
「推薦の最終面接は、ヶだと先が仰っていました」
私は階へと続く階段を見げました。
ヶ。
美咲がこのをてくまでのタイムリミットが、あまりにも残酷な形でき始めていました。
あの子は、なぜそこまでしてこのを捨てようとしているのか。
閉ざされたドアの向こうにいる歳の背をい浮かべながら、私は静かに拳を握りしめました。