"私の弁当に、店長の娘の名前" 第15話
の喉が、ヒッとさく鳴った。 言葉を失い、線を彷徨わせる。
神部はから線をし、ゆっくりと厨のへと歩みをめた。 靴を履いたパートたちが、息を呑んでちすくむ。 部の線は、鍋ので野菜を刻んでいた私ので、ぴたりと止まった。
「本、がっていなさい」 神部はたく言い放ち、私に向き直った。 「さん。し、話せるかな」
「……はい」 私は包丁を置き、を洗ってエプロンで拭いた。
神部は私を促し、厨の裏にある勝のへと歩きした。 は、のたいが吹き抜けていた。 搬入用のトラックがくでアイドリング音を響かせ、業務用の型蔵庫のがく唸っている。 従業員用の喫煙所のベンチの脇で、神部はち止まり、元の企画を広げた。
の端が、にパタパタと煽られる。 神部はそのを見つめたまま、しばらくをかなかった。 たいが、私の頬を刺す。 沈黙のあと、部はゆっくりと顔をげ、私の目をまっすぐに見据えた。
その瞳の奥には、欺瞞を絶対に許さない、プロの厳しさと鋭さがあった。
「さん。単刀直入に聞く」 部の声は、く、しかしこれ以ないほど瞭だった。
「最初の試で私がべたあのお弁当。あの完璧な計算と付けを形にしたのは、本当は誰なんだ」
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が止まった。 のの空の、私と神部の線が、静かに交錯した。
枯らしが吹き抜ける勝の脇で、私は神部の鋭い線を受け止めていた。
業務用の型蔵庫のが、く唸り声をげている。 元にある折りたたまれた企画を、部は指先で静かに弾いた。
「どうなんだ、さん。あの完璧な弁当を形にしたのは、本当は誰なんだ」
喉の奥がカラカラに渇いていた。 今ここで「私です」と叫べば、すべてが覆るかもしれない。 だが、その言が引き起こす波紋のきさが、私のをすくませた。 は激し、私は解雇されるかもしれない。 何より、全国展を信じて毎仕込みを伝ってくれた佐藤さんやリンちゃんのボーナスが、ごと吹きぶかもしれない。 の悪を告発するとき、なぜいつも者の側がこれほどの恐怖を背負わなければならないのか。
私はく息を吸い込み、たいの空気を肺いっぱいに満たした。
「神部」 私の声は、にかき消されそうなほど静かだった。 「部は、もうお気づきなのではないですか」
神部の細い目が、わずかにいた。
「と、お客さんの声が、すべてを証しているといます。……厨で、毎野菜を切り、油の温度を指先で測ってきたと、パソコンの画面のでデータを集めてきたとでは、作れるものが違います。
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それだけです」
神部は線を落とし、元の企画を見つめた。 しばらくの沈黙のあと、彼はを丁寧につ折りにし、胸ポケットへとしまい込んだ。
「……の午、このの事務所で最終決裁会議をう」 部は静かに言った。 「全国展に向けた商品仕様と、全社に示される発クレジットの最終確認に、関係者全員の署名をもらうことになっている。本社の法務と品質管理も同席する。……さん、私は現の欺瞞を見逃すためにここまで来たんじゃない。君の本当のは、のそので聞かせてもらう」
部はそれだけ言い残すと、背を向けて舗のへと戻っていった。 たいのに、私だけが取り残された。
そのの夜、私は自宅のさなアパートの台所で、湯を沸かしていた。 築の造アパートは、すきまで元がえる。 卓のには、使い古したノートが冊置かれていた。 、毎の仕込みのに、客の齢層や候、売れ残った惣菜の数、汁の配比率をき留めてきた私の「仕事記」だ。 黄ばんだページの端は擦り切れ、醤油の染みがいくつもついていた。
スマートフォンの画面がった。 娘の咲良からのメッセージだった。 『お母さん、寒くなってきたけど体丈夫? 来の仕送り、し減らしても平気だから無理しないでね。
就活の準備、私も始めたよ』
画面を見つめているうちに、界がじんわりと滲んだ。