"私の弁当に、店長の娘の名前" 第7話
誰かを傷つけるくらいなら、自分がすればいい。自分がさく縮こまっていれば、周りは丸く収まる。そうやって、千百円の所で笑顔を作り続けてきたのだ。
けれど、今夜は違った。 ここで私が折れれば、私は、自分の元をに差しし続けることになる。
「原価率をパーセントげる方法なら、っています」 私の言葉に、里奈がすっと顔をげた。その瞳に、すがるようなが瞬宿る。 だが、私はそのを容赦なく断ち切った。 「でも、教えません。自分で考えてください。本社の発部で、その商品の責任者として席を置いているのは、私ではなくあなたなんですから」
私は背を向け、シンクの蛇をひねった。 たいが勢いよく流れ落ち、ステンレスのボウルを叩く。 背で、い沈黙があった。 やがて、さく「……失礼しました」と掠れた声が聞こえ、コツ、コツといヒールの音がざかっていった。 スイングドアが閉まる音がしたあと、私は蛇を止め、両をシンクの縁についてく息を吐いた。 臓が激しく波打っていた。指先が刻みに震えていた。 を拒絶することが、これほど体力を削るものだとはらなかった。
翌週から、隣舗での先テスト販売が始まった。
結果は、本社の予を遥かに超えていた。
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舗すべてで、連完売が続いたのだ。 夕方の納品トラックが着くやいなや、惣菜売りにだかりができ、個、個と並べられた『汁煮弁当』が、も経たないうちに平台から消えていく。 本社のイントラネットに掲載される別の売ランキングで、の企画した弁当は、並み居る定番商品を抑えて連トップにランクインし続けた。
内の空気は、異様な揚に包まれていた。 バックヤードですれ違う社員たちが、私を見る目がし変わった。 「さん、すごいね」「今も完売だって」 だが、その声のあとに続く言葉は、決まってこうだった。 「本のところのお嬢さん、本当に優秀なんだねえ。親父さんに似て商才があるよ」 「卒の若い子の発力は違うな。うちのから本社のホープがるなんて、がいよ」
私はただ、さくをげて笑いを浮かべるしかなかった。 惣菜部の仕込みで、佐藤さんは嬉しそうに唐揚げを揚げながら、何度も「当が楽しみねえ」と繰り返していた。 その無邪気な笑顔を見るたびに、私の胃のあたりがきりきりと痛んだ。 真実をにすることは、このたちのささやかな希望を打ち砕くことと同義だった。 私は、誰にも言えない秘密という毒を、でみ込み続けていた。
テスト販売始から週が過ぎた曜の午、休憩に入ると、珍しく先客がいた。
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本里奈だった。 私が入ってきたことに気づくと、彼女は座っていたパイプ子からび起きるようにしてちがった。 その顔にはらかな疲労のが滲んでいた。目のにはい隈ができている。
「……さん」 彼女は周囲を見回した。昼のピークを過ぎた休憩には、私たちしかいなかった。 里奈はりで私の元へ歩み寄ると、震えるで自分のバッグから枚の類を取りした。
「これ、見ていただけますか」 差しされたのは、本社の企画申請のコピーだった。 表のに、鉛で赤字の修正がき込まれている。
【商品企画:本 里奈(商品発部)/ 佐子()】
の名が、スラッシュで区切られて並んでいた。
「神部に、相談したんです」 里奈はで、必に言葉を継いだ。 「私、やっぱり現の力なしにはこの企画は成しなかったって、ちゃんと伝えました。だから、正式な全国展の稟議を通すときに、さんを『共同発者』として連名で申請したいって。部も、異例だけど現のモチベーション向になるなら検討するって言ってくれました」
彼女の瞳は真剣だった。 それが彼女なりに悩み、眠れぬ夜を過ごした末に絞りした「誠」なのだということは、痛いほど伝わってきた。 彼女は自分を「完全な悪」にしたくなかったのだ。
私に配慮し、私の功績をしだけ分け与えることで、自分の罪悪をめたかったのだろう。