"私の弁当に、店長の娘の名前" 第2話
そのの夜、私はで初めて、学のサークルにっている娘にメッセージを送った。 『お母さんの作ったお弁当、本社のに見てもらえることになったよ』 普段はスタンプひとつしか返してこない娘から、すぐに返信が来た。 『まじで!? お母さんすごいじゃん! ずっと頑張ってたもんね』 スマートフォンの画面が滲んで、文字がし見えなくなった。
だが、あのの私はまだらなかった。 持たざる者が差ししたさな成果が、持てる者にとってどれほど都のいい果実に見えるのかを。
本社の発部が察に訪れる、の夕方だった。 惣菜部の仕込みを終え、タイムカードを押そうとした私を、本が呼び止めた。
「さん、ちょっと事務所いいかな」
事務所のは、換気扇のい唸り声と、めた缶コーヒーの匂いが充満していた。 デスクに座った本は、歳。 いつも数字のことばかり気にしていて、現のパートには滅にを見せないだ。 だが今は、どこか落ち着かない様子で、机のの類を指先でトントンと叩いていた。
「のプレゼンだけどね。本社に提する正式な企画が、さっき刷りがってきたんだ」
はそう言って、青いクリアファイルを私の方へ差しした。 表には太いゴシック体で、私の考えた商品名が印刷されていた。
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胸がくなり、私はわず両でそのファイルを受け取った。
ページをめくった。 文字文字、噛みしめるように目を通す。 発の背景、ターゲット層、原価率の計算、試作段階での売データ。 私がチラシの裏にき殴り、に渡したメモの内容が、綺麗なフォントと見やすい表にまとめられている。
だが、そので、私の指がぴたりと止まった。
【起案・商品発担当:本 里奈(商品発部インターン)】 【厨試作協力: 佐子( パートナー社員)】
文字のを理解するのに、数秒かかった。
本里奈。 の娘の名だ。 今、名私学を卒業し、本社の発部で半のインターンとして働いていると、自が自そうに話していたのを覚えていた。
「……」 声がかすれた。乾いた喉から、ようやくそれだけの音がた。 「これは、どういうことですか」
は線をそらさず、机ので指を組んだ。 その表には、悪びれた様子も、取り乱した気配も切なかった。 あまりにも平然としていた。
「どういうことも何もないよ。そのままのだ」 「どうして……企画担当が、本さんのお嬢さんになっているんですか。この企画をしたのは、私です」 「さん」
は、聞き分けの悪い子どもを諭すような、く柔らかな声をした。 「君の気持ちはよくわかるよ。
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君が懸命作ったのも、現で夫したのも、私はちゃんと見ている。だから『試作協力』の欄に、ちゃんと君の名を入れたじゃないか」 「協力、ではありません」 私はファイルを握りしめた。がクシャリと音をてた。 「メニューを考えたのも、付けを決めたのも、原価を計算したのも全部私です。お嬢さんは度もこの厨に来ていません」 「じゃあ聞くけどね」
の声から、柔らかさが消えた。 現実を突きつけるたさが、事務机を挟んで私の胸に突き刺さる。
「君は、の会議でパワーポイントを使ってプレゼンができるのかい? 役員たちから流通マージンやラインのキャパシティについて質問されて、正確に答えられるのか? 本社の面接を勝ち抜いて、発部で正社員としてやっていく覚悟があるのか?」 「それは……」 「君はパソコンもろくに打てないだろう」
喉が詰まった。 確かに私は、シフト表の確認とバーコードの発くらいしか械を触れない。 企画をデータにする技術なんて持っていなかった。
「里奈はね、学でマーケティングを専攻して、いま本社の現で必に戦っているんだ。今回の企画も、君の乱雑なメモを、本社のフォーマットにわせて晩で清したのは里奈なんだよ。あの子はいま、正規登用の枠をかけて勝負している。
歳の若い芽なんだ」
はを乗りし、私の目をじっと見つめた。 「さん。君はもうだ。