"失踪した兄へ父が送り続けた金" 第14話
「……分からん」
兄はぽつりと言った。
「憎いとか、許すとか、そういう話じゃないんだ。……ただ、あのはそういうで、俺はその息子のまま、を過ぎてしまった。それだけだ」
「兄貴……」
畳に額を擦りつけたまま、修平がしゃくりあげていた。 両の拳をく握りしめ、畳の藺をむしり取るようにして震えている。
「俺……さ、みんなから『偉いね』って言われてきてきたんだよ。親父の会社を片付けて、母さんのの世話をして、所のたちから『男は逃げたのに、次男の修平さんは本当に親孝だ』って……そう言われるたびに、胃の奥が焼け爛れるみたいだった」
修平の背が、さく丸まる。
「親父もってたんだ。俺が嘘つきだってことも、兄貴を追いした本当の元凶が俺だってこともさ。きりの病で、親父が俺を見る目が怖かった。何も言わないんだよ。『おのせいで也はいなくなった』とも言わない。ただ、軽蔑したような目で俺を見て……毎、田にを振り込む続きだけを俺にやらせたんだ」
それが、父が修平にした罰だったのだ。 警察にも突きさず、から追いしもせず、男の代わりとして介護のをすすらせ、兄への振込用を自分のでかせること。
「俺は……兄貴のを奪ったんだ」
修平の涙が、畳のに黒い染みを作っていく。
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「ごめん……ごめんなさい、兄貴……。俺が、あの……」
居のに、修平の泣き叫ぶ声だけが反響していた。 代半ばの男が、幼い子どものようにに突っ伏して詫び続けている。
私は胸が張り裂けそうになりながら、兄の表を伺った。
兄は、かなかった。 駆け寄って弟を抱き起こすこともしなければ、「もういい、気にするな」と優しい言葉をかけることもしなかった。
そんな易な赦しは、が過ごしたという歳を、かえって冒涜することになるとっているかのようだった。
兄はゆっくりと歩み寄った。 そして、に平伏する修平の真んで、静かに片膝をついた。
兄のが、修平の震える肩のに置かれた。 械油の染み付いた、く、節くれだったきな掌。
修平の嗚咽が、ぴたりと止まった。
「……修平」
兄の声は、驚くほど静かで、温かかった。
「お……この、いい暮らしをしてたのか」
修平の肩が、びくりとねた。
「え……?」
「親父の会社を背負って、母さんの介護をして、このに残って……おは、楽しかったか。幸せだったか」
兄の問いは、責めるを完全に欠いていた。 ただ、同じひとつの庭という名の呪縛に捕らわれ、別の獄をきてきた弟に対する、純粋な問いかけだった。
修平はゆっくりと顔をげた。 充血した目で、兄の顔を見つめ返す。 そこにあるのは、かつての優秀で完璧なエリート男の顔ではなかった。
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のと油にまみれ、酸いも甘いも噛み分けた、男の静かな差しだった。
修平の喉が、引き攣るようにいた。 、誰のでも決してにできなかった本音が、ぽろりと零れ落ちた。
「……あんまり、よくなかったよ」
修平の声は、かすれていた。
「全然……よくなかった。辛くて、寂しくて……毎、消えてしまいたかった」
「そうか」
兄はく頷いた。
「俺もだ。館のは寒くてさ。最初のは、毎晩のように親父を殺すを見て起きたよ」
兄のが、ぽん、と度だけ修平の肩を叩いた。
「もういいだろ。親父もんだ。母さんもんだ。このもおしまいだ」
兄はちがり、ポケットから古びたハンカチを取りすと、修平ののにぽんと放り投げた。
「顔を洗ってこい。産が来るんだろ。みっともない顔を見せるな」
修平はハンカチを両で握りしめ、顔を覆った。 今度は声を忍ばせて、ただ静かに、分の澱を洗い流すように泣いていた。
そこには、劇な解も、抱きって涙を流すようなな抱擁もなかった。 けれど、優秀な男と来損ないの次男という、を縛りつけ、憎みわせ、壊していった歪な関係は、確実にそので息絶えていた。
午半、黒塗りのセダンに乗って産の担当者がやってきた。
契約の確認と、境界線のち会い。
兄は「俺は相続を放棄しているから」