"失踪した兄へ父が送り続けた金" 第13話
居には、線の細い煙の匂いだけが漂っていた。
母の写真ので、兄はい沈黙を保っていた。 私はバッグのから、あの茶の封筒を取りした。 昨夜からずっと、私のので湿り気を帯びていた、父の遺品。
『也がこのをりたる、く者のにて処すべし』
角ばった文字でそう記された封筒を、私は兄の膝の横に置いた。
「お父さんが遺したよ」
私は言った。
「斎の箱に鍵をかけて、くなる直に修平に渡したの。あなた宛の。……、あなたに送っていたおの理由が、ここにいてあるはずよ」
兄は畳のの封筒を見ろした。 だが、そのを伸ばそうとはしなかった。 両をスラックスのポケットに突っ込んだまま、淡な横顔を崩さない。
「いらない」
兄の声は、氷のように固かった。
「お兄ちゃん……」
「んだが、んだにいた言い訳など聞くは持たん。俺に言いたいことがあったなら、きているうちに田に来ればよかったんだ。だぞ。幹線に乗れば、京からで来られたはずだ」
兄の線が、空っぽの居の井へと向けられた。
「あの男は来なかった。俺がどこで、どんなをすすってきているかをりながら、度だっての引き戸をけに来なかった。を振り込むだけで、父親の責任を果たした気になっていたんだ。
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……そんな、読む価値もない」
兄がちがろうとした、その瞬だった。
「俺が読む!」
鋭い叫び声とともに、修平が畳のを滑るようにしてび込んできた。
修平は兄の元にあった茶封筒を引ったくると、そのまま畳のに両をつき、座の姿勢をとった。 額を畳に擦りつけ、肩を激しくさせながら、修平は叫んだ。
「兄貴が読まないなら、俺が読む! 俺が……俺が聞かなきゃいけないんだよ!」
兄はを止め、見ろした。 その瞳に、たいが戻る。
「修平、お……」
「俺のせいだろ!」
修平が顔をげた。 涙とでぐしゃぐしゃになった顔。 、親孝息子の仮面のに隠し続けてきた、醜い傷を自ら引き裂くような声だった。
「俺が借を作って、形を偽造したからだ! 兄貴が俺を庇ってくれたのに、俺は親父が怖くて黙ってた! 兄貴がこのを叩きされるのを、襖の隙から見てたくせに……俺はずっと、兄貴が悪いんだって自分に言い聞かせてきてきたんだ!」
修平の指が、茶封筒の端を乱暴に引きちぎった。 糊付けされたのがバリバリと音をてて破れ、からつ折りにされた便箋が枚、零れ落ちた。
修平は震えるでそれを広げた。 便箋は、驚くほどかった。 万のインクが掠れ、病でかれたことが目でわかる、々しく歪んだ父の跡。
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修平は嗚咽を噛み殺しながら、掠れた声でそれを読みげた。
『也へ。 おをから叩きしたのは、俺だ。 おが修平の借を被ろうとしていたことなど、最初から分かっていた。 森田から毎、おがの備士になったと報告を受けていた。 だが、俺にはおを呼び戻す勇気がなかった。 おの顔を見るのが、怖かった。 すまなかったと、こので言うことができなかった。 言葉を先延ばしにしすぎた男は、最にの数字を送ることしかできなかった。 也。 俺を許すな。 川郎』
読み終えた瞬、修平のから便箋が滑り落ちた。 片が、乾いた畳のに音もなく落ちる。
それだけだった。 々とした病気の苦しみも、言い訳も、親のを説く美辞麗句もなかった。 ただ、自分の傲さと臆病さを認めた、あまりにも器用で、惨めな老の告だった。
「……あいつは」
兄のから、く掠れた声が漏れた。
兄はったまま、畳のに落ちた父の便箋を見ろしていた。 両をポケットから引き抜き、ぎゅっと握りしめている。
「あいつは、ぬまで『悪かった』の言もけない男だったな」
「うん……」
私が答えると、兄はふっと息を吐きした。 泣くでもなく、るでもなく、ただ呆れ果てたような、ひどく乾いた自嘲の笑みだった。
「お兄ちゃん、父さんのこと……まだ憎んでる?」
私の問いかけに、兄はすぐには答えなかった。 のい差しが、空っぽの居の畳を淡く照らしている。