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"失踪した兄へ父が送り続けた金" 第12話

朝のから始まった引越し業者の作業は、正午を回る頃にはすべて終わっていた。 使い古された箪笥も、応接セットも、父が事にしていた百科事典の棚も、型トラックの荷台に吸い込まれてりっていった。

具が運びされたあとの居は、信じられないほど広くて、寒々しかった。 畳のあちこちに、具が置かれていた角い凹みと、焼けしていない青っぽい藺(いぐさ)の跡だけが、くっきりと残っている。

「……姉さん、産が来るの、半だよな」

がらんとした畳の真んに腰をろし、修平が腕計を見つめながら呟いた。 黒いスラックスにのワイシャツを着た修平は、朝から言も煙を吸っていなかった。 ただじっと、誰もいない玄関の方角へを澄ませている。

のの隅にだけ、さな折りたたみ机が置かれていた。 そのには、母の遺と、真しい線て。 母はの穏やかな笑顔のまま、埃の匂いがち込める空っぽの部を見守っていた。

兄にショートメッセージを送ってから、週。 返信は、通もなかった。

『読んだかどうかも分からないわね』と私が言うと、修平は首を振った。

「いや、読んだよ。あいつは……兄貴はそういうのを無できるじゃない」

修平の声には、妙な確信があった。 かつて兄を恐れ、兄を裏切り、そのに怯え続けてきた弟だからこそっている、兄の真面目さに対する確信だった。

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分を回った頃だった。

の通りで、乾いた属音が響いた。 実の錆びついた扉が、ゆっくりと押しけられる、ぎぎぃというい軋み。

修平の肩がねがり、背筋が直線に伸びた。 私も息を呑み、正座したままけなくなった。

砂利を踏みしめる靴音がづいてくる。 迷いのない、けれど歩歩のみを確かめるような音。 (たたき)の引き戸がガラガラとき、たい気が玄関から居へと流れ込んできた。

「……すいません」

く、落ち着いた声だった。

私はちがり、廊へた。 暗い玄関に、の男がっていた。

館ので見た、あの油まみれのツナギ姿ではなかった。 量販で急遽買い求めたような、折り目のまだい物の黒いスーツ。 いワイシャツの首元はきつく締められ、く刈り込まれた髪交じりの髪は、丁寧に櫛で撫でつけられていた。

元には、物の黒い革靴。 だが、その爪先だけは、染み付いた械油のせいで、いくら磨いても鈍いしか放っていなかった。

「……お兄ちゃん」

私の声に、兄はさく頷いただけだった。 ぶりのがの敷居を跨ぐことに、劇な慨を見せる素振りすらなかった。 ただ、のを訪れたときのように、静かに革靴を揃えてがった。

居の入りで、修平がちがっていた。

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兄弟の線が、空の真んで激突する。

修平の唇が刻みに震え、膝がガクガクと音をてそうになっていた。 何かを言おうとしてをきかけ、だが声にならず、そのまま縛りにあったようにち尽くしている。

兄は、そんな修平の姿をまっすぐに見据えた。 るでもなく、軽蔑するでもなく、ただをかけて、歳になった弟の痩せこけた輪郭を確かめるように。

兄は何も言わず、修平の横を通り過ぎた。 そして、のに置かれた母の遺のへと歩み寄った。

座布団も敷かれていない畳のに、兄は両膝をついた。 線にをつけ、静かに煙をてる。 く、くをげ、額が畳につくほどく平伏していた。

背が、わずかに震えていた。 けれど、兄は声をげて泣くことはしなかった。 ただ、ゆっくりと顔をげた兄の目は、血るほど赤くなっていた。

「……修平」

母の遺を見つめたまま、兄が背越しに声をかけた。

「母さんは、最期まで苦しんだのか」

修平の喉が、ヒュッと鳴った。 絞りすような、か細い声が返ってくる。

「……最のは、識がなかった。痛がりもしなかったよ。ただ……」

「ただ、何だ」

「毎、夕方になると……玄関を見てた。『也が帰ってくるだ』って、そればかり言ってた」

兄の顎の筋肉が、ギリリと音をてるほどく引き絞られた。 拳を握りしめた兄の両の甲に、黒い油染みと太い血管が浮きがっていた。

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