"失踪した兄へ父が送り続けた金" 第9話
その瞬、修平の目が血った。 座っていた膝をねげ、修平はちがると、元の陶器片を壁に向かって蹴りばした。
カツン、と甲い破砕音が響き、壁のクロスにい傷がついた。
「違わない!!」
修平が叫んだ。 喉の血管が張り裂けんばかりに太く浮きている。
「何が違うんだよ! あのは逃げたんだ! どんな理由があろうと、あの夜このをてって、度と戻ってこなかった! それが全てじゃないか!」
修平の両が、激しく宙を掻いた。
「姉さんは何も見てないだろ! 結婚してをて、埼玉のマンションで綺麗な暮らしをしてた姉さんには、このがどんな獄だったか分からないんだよ!」
胸を刃物で突かれたような痛みがった。 私は言葉を失い、ち尽くす修平を見げるしかなかった。
「母さんが倒れてからの、誰がシーツを洗ってたとってんだよ!」
修平の目から、粒の涙がぼろぼろとこぼれ落ちていた。 それはしみというより、蓄積された怨嗟の濁流だった。
「認症がんで、自分の名も分からなくなって、夜に徘徊して警察に保護されて……。の世話をして、汚れた着を洗いで揉んで、泣きながら『也はどこ』って繰り返す母さんの背を、誰が毎晩さすってたとってんだ! 俺だよ! 代の全部をドブに捨てて、俺がひとりでやったんだよ!」
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修平の拳が、畳を何度も激しく殴りつけた。 ドン、ドン、と鈍い振が元から伝わってくる。
「父さんだってそうだ! 癌が骨に転移して、痛みに耐えかねて夜に暴れて、点滴の管を引き抜いて……。護師にをげて、オムツを取り替えて、会社の残務理で借取りに座して回ったのは誰だ! あの優秀な男か?! 違う、俺だろ!!」
修平は息を切らし、肩を激しくさせながら、私を睨みつけた。
「親戚の連はみんな言ったよ。『修平くんは偉いね』『男は親を捨てたのに、次男がよくやってる』ってさ。……俺は、その言葉だけできてきたんだよ。兄貴が棒で、恩らずで、逃げしたクズだからこそ、残った俺のにはがあったんだ!」
修平の声が、掠れた鳴に変わっていく。
「それなのに……何だよ。兄貴は被害者だった? 親父に追いされてだった? じゃあ、俺は何なんだよ! 親孝息子の板を背負わされて、結婚も諦めて、までこの呪われたに縛り付けられた俺のは、体何だったんだよ!!」
修平は両で顔を覆い、そのに崩れ落ちた。 指の隙から、濁った嗚咽が漏れす。
私は言も返すことができなかった。 修平の言う通りだった。 私はで結婚し、実の介護の荷からどこかで目を背けていた。 に度顔をし、果物や遣いを置いていくだけで、「自分は娘としての義務を果たしている」
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とい込んでいたのだ。
獄のをでみ干していたのは、紛れもなく目のの弟だった。
けれど。 だからこそ、私は引くわけにはいかなかった。
「……修平」
私は震える膝をにめ、に突っ伏す弟の背にそっとを置いた。
「あなたの苦しみは、消えないわ。誰もあなたを責められない。……でもね、修平。あなたはどうして、そこまでお兄ちゃんを悪者にしなきゃいけなかったの?」
修平の背が、ぴくりと直した。
「父さんとお兄ちゃんの喧嘩の理由。……会社の連帯保証の問題だけじゃなかったんでしょう」
私は、田のプレハブで兄が最に漏らした言葉をいしていた。 『修平のことはにするな』 あの、兄の目に宿ったたいの理由を。
「修平。あなた、何をしたの?」
私の問いかけに対し、修平はじろぎつしなくなった。
がまり、古い瓦根を激しく叩く音だけが、静まり返った居に響いている。 どれほどの沈黙が流れただろうか。 修平はゆっくりと顔をげた。
涙とでぐしゃぐしゃになったその顔には、先ほどの激は消え失せていた。 ただ、すべてを諦めたような、底の抜けた虚無だけが広がっていた。
「……バレてたのか」
修平がぽつりと言った。
「兄貴、何か言ってたか」
「何も言ってない。『あいつのことはにするな』って、それだけよ。でも、それが答えだった。