"失踪した兄へ父が送り続けた金" 第7話
「……何だ、これは」
「言ったでしょう。父さんが、毎あなたの誕の翌に、このに送っていたおよ」
兄の線が、のを素くる。 最初は審そうだった兄の瞳が、付と額、そして座名義を確認するにつれて、きく見かれていった。
「……羽、館支……? 森田の、親父さんの座……?」
兄の唇が刻みに震え始めた。 ちがろうとした兄の膝から力が抜け、パイプ子がガタリと音をてた。
「嘘だろ……。おい、これ、本当に親父の字なのか?」
「見違えるわけないわ。父さんの几帳面な、角ばった字よ。摘欄を見て。『活』っていてある。父さんは、あなたがここにいるのをっていたのよ」
兄はを握りしめたまま、呆然と壁を見つめた。 その顔から、先ほどまでの頑なな警戒が急速に剥ぎ取られていく。 代わりに浮かびがってきたのは、底れぬ混乱と、激しい揺だった。
「森田の親父さんは……俺が京から逃げてきて、田のの駅で倒れかけてたのを拾ってくれただ」
兄の声がかすれていた。
「元も聞かずに、み込みで使ってくれた。をちげるときも、『おの腕があればやっていける』って、親父さんが自分の退職を注ぎ込んでくれたんだ。あのリフトも……コンプレッサーも……」
兄の線が、事務所の窓の向こうにある作業へと向けられた。
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先ほどまで兄がに入り込んでいた、油まみれの油圧リフト。
「、を作ってすぐの頃、経営が苦しくて倒れそうになったがあった。その、親父さんが『りいから無利子でを融通してもらったから、配すんな』って、百万円い現をポンと置いてくれたんだ」
兄の指が、振込用の端を破れんばかりにく握りしめる。
「それだけじゃない。俺がの、い肺炎でヶ入院した。術代も払えなくて途方に暮れてたら、森田の親父さんが『俺の保険がりたから使え』って、病院の窓で全額払ってくれたんだよ……!」
兄の喉から、獣のような呻き声が漏れた。
「全部……あののだったっていうのか? 俺をゴミみたいに追いした、あの男のだったのか……?!」
森田郎という男は、兄の恩などではなかった。 いや、恩であったことには違いないが、その背で糸を引いていたのは、ならぬ父・川郎だったのだ。
父は、男を叩きした、息子の方を突き止めていた。 そして、旧の仲だったのか、それとも偶然見つけしたのかは分からないが、森田という男を通じて、息子の活をから買い支えていたのだ。
『俺が助けてやった』とは、決して言わずに。 息子ので『すまなかった』とをげることもなく。 ただ、毎息子の誕の翌に、たい数字だけを送り続けることで。
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「……ふざけるな」
兄の目から、粒の涙がぼろぼろとこぼれ落ち、油で汚れた頬を黒く濡らした。
「ふざけるなよ、あのクソ親父が……! 何が『活』だ! 何が万だ! そんなで、親の顔をしてたんじゃないぞ! 許してほしかったなら、迎えに来ればよかっただろうが! 『悪かった、帰ってこい』って、どうして言言えなかったんだよ……!!」
兄は振込用のコピーを机に叩きつけ、両で顔を覆って泣き崩れた。 を過ぎたの男が、肩を激しく震わせて嗚咽している。
許せないのは、父の酷さではなかった。 ぬまで謝罪の言葉つにできず、を送ることでしか息子と繋がることができなかった、そのあまりにも器用で、傲で、臆病な父親の業(ごう)だった。
事務所の空気が張り詰める、私のバッグので、スマートフォンがけたたましく震え始めた。
画面には、『修平』の文字。
私は涙を拭い、通話ボタンを押した。
「もしもし、修平——」
『姉さん!!』
受話器の向こうから聞こえてきたのは、常軌を逸した修平の鳴り声だった。 息を切らし、狂乱したような声。
『どこにいるんだよ! 田か?! 田にったのかよ!!』
「修平、落ち着いて。私、今お兄ちゃんと——」
『戻ってこい! 今すぐ京に戻れ! 余計なことを聞くな!!』
修平の叫び声の背で、ガシャンという激しい破壊音が響いた。 実の居で、何かが叩き割られたような音。
『あのが……兄貴が戻ってきたら、俺のが全部めちゃくちゃになるんだよ!! 頼むから、帰ってきてくれ……頼むから……!!』