"失踪した兄へ父が送り続けた金" 第6話
兄は無言でその員にで図をし、のへてくよう促した。
員がりでてき、引き戸が閉まる。 のに、きりの苦しい沈黙が落ちた。
兄はゆっくりと息を吐きし、事務所とかれた汚れたドアをけた。
「入れ。……所迷惑だ」
事務所のは、煙の煙と古い伝票の魚(しみ)の匂いが充満していた。 パイプ子が脚と、油で汚れた事務机。 壁には以とわれるカレンダーがそのまま掛けられている。
兄は湯呑みをすでもなく、パイプ子に浅く腰掛け、胸ポケットからハイライトを取りしてをつけた。 煙の向こうで、兄のい横顔が揺れる。
「母さんがんだことは、の噂で聞いていた」
兄がぽつりと言った。
「館の同業者に、京から流れてきた職がいてな。そいつから聞いた。……だが、俺には帰る所なんてなかったんだよ」
「どうしてよ! 親子の喧嘩くらい、どこのにだってあるでしょう! が経てば、父さんだって許してくれたはずよ!」
「許す?」
兄の元が、自嘲気に歪んだ。
「真紀、おは何もらなかったんだな。親父がどんなだったか。あの会社が、どんな綱渡りをしていたか」
兄はく煙を吸い込み、皿にを落とした。
「、俺は専務として会社の決算を洗い直した。そしたら、親父のやつ、事業拡の焦りから、親戚じゅうの名義を使ってから無茶な借り入れを繰り返してたんだ。
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それだけじゃない。うちの古参の社員たちにまで、個で連帯保証のハンコを押させてた」
背筋が寒くなった。 父は、元でも羽振りのいい実業として通っていた。 豪邸にみ、を乗り回し、親戚の集まりではいつも座に座って盤振るいをしていた。 その裏で、そんな危険なを渡っていたなど、当の私はにもわなかった。
「度でもきな焦げ付きがれば、親戚も社員も全員に迷う。すりゃ自己破産じゃ済まないレベルだった。俺は親父に迫ったよ。今すぐ規の融資を止めろ、親戚と社員の保証をせ、の丈にった規模に縮しろってな」
兄の目が、当のりをいしたようにギラリとった。
「そしたら親父は何て言ったとう? 『おのような臆病者に社の子は譲れない』『俺の築いたにケチをつける気なら、今すぐてけ』だ。鳴りいになって、親父は皿を俺のに投げつけてきた」
「そんな……」
「翌朝だよ」
兄の声が、絞りすようにくなった。
「俺が目を覚ましたら、部にあった俺のスーツや私物が、全部ゴミ袋とトランクに詰められて、玄関先のに放りされてたんだ」
の、を切るような凍てつく朝だったという。 扉には鍵がかけられ、父は階の窓から仁王ちで見ろしていた。
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『度と川の敷居を跨ぐな! おのような恩らずの息子は、最初からいなかったものとう!』
父の声が、静かな宅に響き渡った。 母が泣き叫びながら玄関の扉を内側から叩く音が聞こえたが、父は頑として鍵をけなかった。
「俺は、つの鞄を抱えて、そのまま駅まで歩いたよ。携帯も会社のも全部置いて、自分の財布にあった数万円だけを握りしめてな。それがのあのだ」
兄は煙をもみ消した。 皿ので、微かな煙がちり、消えていく。
「俺が捨てたんじゃない。俺が捨てられたんだよ。あのに残っていたら、俺は親父を殺していたかもしれない」
私は言葉を失っていた。 記憶のの父は、いつも威厳に満ちていて、し頑固だが族をっている父親だった。 だが、兄が語る父は、自分のメンツと独裁を守るためなら、実の息子すら真のに放りす怪物だった。
「でも……」
私は震えるでバッグをけ、京から持ってきた類を取りした。
「じゃあ、これは何なのよ」
私が机のに叩きつけたのは、あの振込受取のコピーだった。
枚の片。 すべて、の付。 すべて、万円という額。 そして、振込先として印字された『森田自修理 代表 森田郎』の文字。
兄は怪訝そうに眉をひそめ、油の染みた指でそのを枚、持ちげた。