"失踪した兄へ父が送り続けた金" 第5話
そして、なぜ修平はあそこまで激しく狼狽し、証拠をにしようとしたのか。
窓の景が、のビルから、刈り取られたの黄い田んぼへと移り変わっていく。 盛岡で奥羽本線の特急に乗り換え、さらに鈍に揺られること。 館駅の改札をたときには、正午をきく回っていた。
駅にはもまばらで、褪せたタクシーが台、ロータリーにまっているだけだった。 空はく、今にも鉛のが落ちてきそうだった。
「森田自までお願いします。国沿いの」
運転にき先を告げると、初老のドライバーはバックミラー越しに私を瞥した。
「森田さんとこかい? あそこ、親父さんが倒れてから川さんがひとりで切り盛りしてるけど、京からのお客さんなんて珍しいね」
「……よくごなんですね」
「そりゃあね。館じゃ腕のいい板としてられてるよ。無だけど、仕事は丁寧でさ。農協のトラックなんかも、みんなあのに頼んでる」
その言葉を聞いた瞬、胸の奥がきりきりと痛んだ。
京で父の会社にいた頃、兄は仕ての良いスーツを着て、革張りの帳をに現を指揮していた。 学をてすぐに専務になり、誰もが「川の若社」と呼んでいた。 その兄が、見らぬ国の片隅で、と錆にまみれた軽トラックの修理を黙々と続けている。
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は国号線をれ、枯れがい茂る側へと入っていった。 トタン板で補修された古いプレハブと、野ざらしにされたタイヤのが見えてきた。
板には、錆びた文字でこうかれていた。
『限会社 森田自修理』
タクシーがちると、周囲は静まり返った。 くの並みから吹きろすが、プレハブのトタン根をガタガタと揺らしている。
の引き戸は半分け放たれていた。 を覗き込むと、いギヤオイルの匂いと、アセチレンガスの焦げたような臭気がを突いた。
リフトのに、部を破した軽ワゴンが持ちげられている。 そので、紺のツナギを着た男が、仰向けになってスパナをかしていた。
「……すいません」
私の声は、作業の男のには届かなかった。 属と属がぶつかりう甲い音が、暗い作業に反響している。
私は歩、コンクリートのにを踏み入れた。 靴底に、黒く変した油の染みが張り付く。
「お兄ちゃん」
音が止まった。
リフトのから、ゆっくりと輪付きの寝板が引きされた。 起きがった男の顔を見た瞬、私は喉の奥が詰まりそうになった。
という歳は、残酷なまでに兄の姿を変えていた。
ふっくらとしていた頬は削げ落ち、顎の骨が浮きている。 髪にはいものが目ち、額にはい皺が刻まれていた。
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そして何より、両のの甲から指先にかけて、洗っても落ちない黒い械油が皮膚のきめにまで染み込んでいた。
だが、私を射抜くようなそのい線だけは、かつて父と激しく言い争っていた頃の兄そのものだった。
「……真紀」
兄はちがり、汚れたウエスで無造作にの油を拭った。 声は、話で聞いたときと同じようにく、たかった。
「来るなと言ったはずだ」
「逃げられるわけないでしょう。も方をくらませておいて」
私は震えるを踏みしめ、兄に詰め寄った。
「話を切ったあと、ずっと考えてた。お兄ちゃんは父さんに追いされたって言ったわね。でも、父さんは毎、ここに万円を送ってた。先までずっとよ。あなたがらないはずがないじゃない!」
兄は眉つかさず、ウエスをドラム缶のに放り投げた。
「ここはおが来るような所じゃない。幹線のまで駅の待にでもいろ。タクシーを呼んでやる」
「答えてよ!」
私の叫び声が、プレハブの壁にね返った。
「母さんがどんないでんだかってるの?! 識がなくなる直まで、あなたの名を呼んでたのよ! 『也はご飯をべてるかしら』って、毎毎そればかり! それなのに、あなたはこのの果てで……父さんのおをもらいながら、度も顔を見せなかった!」
の奥で、留守番をしていたらしい若い備士が、驚いたように顔を覗かせた。