"失踪した兄へ父が送り続けた金" 第4話
涙が溢れて、界が歪んだ。 裏切られていたのは、母と、修平と、私だったのだ。 父と兄は裏で繋がっていて、父はあの酷な男にを注ぎ込み続けていたのだと、そう信じ込みたかった。 そうでなければ、残された私たちのがあまりにも惨めすぎるからだ。
だが、話の向こうから返ってきたのは、激しい鳴り声でも、泣き崩れる声でもなかった。
微かな、嘲笑うような吐息だった。
『……?』
「え?」
『何の話だ。俺が親父からを受け取ってた?』
「とぼけないでよ! 振込先はそこのの座よ。摘欄に『活』ってかれて——」
『俺は円たりとも、あのからなど受け取っていない』
兄の声は、氷のように研ぎ澄まされていた。 嘘をついているようには聞こえなかった。 その声のさに、私はわず息を呑んだ。
『親父はな、真紀』
兄が静かに言った。
『、俺をこのから叩きして、親子の縁を切ったんだよ。度と敷居を跨ぐなと、自分のでてけと、俺の荷物を全部に放り投げたのはあの男だ』
「嘘……そんなの、聞いてない。お兄ちゃんが勝にをてったって——」
『親父がそう言ったのか? あいつらしいな。ぬまで自分の非を認めない、そういうだったよ』
のが激しく混乱した。 父が、兄を追いした? を捨てたのは兄ではなく、父が兄を切り捨てたというのか。
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では、あの毎送られていたは何だったのか。 なぜ兄は、そのをらないと言い切るのか。
「待って、お兄ちゃん、切らないで! 修平もこのことをってるみたいで——」
『修平のことはにするな』
兄の声が、瞬だけ鋭く尖った。 それまでの淡さを突き破り、剥きしの憎悪のようなものが滲みしていた。
『俺は川のじゃない。にんだんだ。度と話してくるな。ここにも来るな』
「お兄ちゃん!」
ガチャリと、無質な音が響いた。 そして、ツーツーという無質な発信音がの奥を突き刺した。
階段の踊りに、静寂が戻る。 私は受話器をに当てたまま、くことができなかった。
兄はきていた。 だが、の提が、元から音をてて崩れっていた。
兄は自ら族を捨てたのではなかった。 父が兄を追いしたのだ。 そして兄は、父が送り続けていたのを、本当にらないようだった。
ポケットので、スマートフォンが震えた。 画面を見ると、修平からの着信だった。
通話ボタンを押すと、修平の焦りを含んだ声がび込んできた。
『もしもし、姉さん? 今どこにいるんだよ。……まさか、あののこと、誰かに調べさせたりしてないだろうな』
背筋にたいものがった。
「修平……あなた、どこまでってるの?」
私の問いかけに、話の向こうの弟は、ただ荒い呼吸を繰り返すだけだった。
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昨夜、実に戻ったときの修平の顔が、今も網膜に焼き付いてれない。
「姉さん、これに実印を押してくれ」
居のテーブルに置かれていたのは、実の売却に関する遺産分割協議だった。 修平の目は異様に血り、爪を噛む癖が何度もていた。 彼の元には、斎から持ちられたはずの振込用の束はどこにもなかった。 燃やしたのか、どこかに隠したのか。
『でいいでしょう』と私が言うと、修平は苛ちをわにして机を叩いた。
『くしないと買いが逃げるんだよ。このを更にして、親父の負債を清算して、全部終わらせるんだ。……姉さん、余計なことは考えるな』
その言葉の裏に、どれほどの怯えが隠されていたのか。 私は寝に鍵をかけ、朝が来るのを待った。 そして午、修平がのように眠っている隙に、バッグつだけを抱えて実をた。
京駅の幹線ホームは、たいのが吹き抜けていた。 午分発、盛岡きの始発列。 自由席の窓側に座り、私はスマートフォンに保した振込控えの写真を何度も拡して見つめた。
『森田自修理 代表 森田郎』
羽館支。 田県部の、に囲まれた盆のだ。
兄は「親父に叩きされた」と言った。 「親子の縁を切られた」と。 だが、父は、兄の誕の翌に万円を送り続けていた。
もし兄の言葉が本当なら、あのはいったい誰のに入っていたのか。