"失踪した兄へ父が送り続けた金" 第3話
呼びし音が鳴る。 度、度、度。 途切れ途切れのい子音が、いのへと繋がっていく。
回目で、ガタリと乱暴に受話器が持ちがる音がした。
『……はい、森田自』
話にたのは、かなり配の男性だった。 背から、エアーコンプレッサーの激しい作音と、属を叩く鈍い音が響いてくる。
「あ、あの、突然のお話で申し訳ありません。京の者なのですが……森田郎様はいらっしゃいますでしょうか」
私の声は緊張で震えていた。 話の向こうの相は、怪訝そうにを鳴らした。
『森田の親父さん? 親父さんならのにくなったよ。脳梗塞でポックリだ。あんた、誰だ?』
くなった。 のが真っになりかけた。 じゃあ、先父が送った万円はどこへったのか。 座がまだいているということは、誰かが引き継いでいるはずだ。
「そう……だったんですか。ご冥福をお祈りいたします。あの、実は私、川郎の娘でして……父が以からそちらにお世話になっていたようで、ご挨拶をといまして」
父の名をした瞬、相の呼吸がわずかに止まったような気がした。 背の械の音がふっとのく。
『川……? 京の、川さんか?』
「はい。父をごなのですか?」
『ってるも何も……いや、ちょっと待ってろ。今、責任者に代わるから』
ガチャンと受話器が机のに置かれる乾いた音がした。
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くで、男が叫ぶ声が聞こえる。
「おい、川! 京から話だ! おの内じゃねえのか!」
臓が、のすぐ奥でねがった。
川。 その男は今、のにいる誰かを、違いなくそう呼んだ。
、警察のデータベースにも、記録にも、親戚の噂話にも度も浮しなかった名。 族全員が「どこかでんだのではないか」と諦め、「自分たちを捨てた裏切り者だ」と呪い続けていた兄の名が、見らぬのの片隅で、当たりのように呼ばれている。
きていた。
兄は、本当にきていたのだ。
受話器が拾う音がづいてくる。 コンクリートのを擦る、い全靴の音。 荒い息遣い。 そして、受話器が再び持ちがった。
『……もしもし』
代の頃の、通るようなるい声ではなかった。 タバコと油煙に焼かれたような、く、かすれた男の声。 けれど、語尾のわずかな抑揚に、違いなく私の兄の輪郭が残っていた。
私は息を呑み、言葉を失った。
相は、こちらの沈黙をいぶかしむように、く繰り返した。
『どなたですか。……もしもし』
「……お兄ちゃん」
私の唇から、ぶりにその単語がこぼれ落ちた。
受話器の向こうの空気が、凍りつくのが分かった。
の械音が消え、ただ受話器を通した微かなヒスノイズだけが、私のを満たしていた。
『……真紀か』
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呼び慣れたはずの名が、酷く錆びついた響きを帯びて返ってきた。 懐かしさなど微もない。 そこにあったのは、唐突に過の霊を突きつけられたような、警戒と拒絶のだった。
「お兄ちゃんなのね。本当に、也お兄ちゃんなのね」
『どうしてこの番号をった』
「父さんの遺品を理したの」
私は階段のすりを握りしめた。たい鉄の触が、震える掌にい込む。
「先週、父さんがくなったのよ。ってた? 母さんも、にんだわ。あなたがいなくなってから、うちがどうなったか、しでも考えたことあるの?」
りが喉までせりがってきた。 どれだけ母が泣いていたか。 どれだけ修平が自分のを削ってを支えてきたか。 それなのに、このはの果てで平然とき延びていた。
だが、兄の返答は、私の予を遥かに超えて淡だった。
『……そうか。親父もんだか』
それだけだった。 悔やむでもなく、驚くでもなく、ただいの訃報を聞いたような乾いた声だった。
「それだけ? 実の父親がんだのよ! それに……私、見つけたのよ。父さんの斎から、の振込用が束になっててきた。、毎に、あなたのいるその修理に万円ずつ送られてた。先までずっと!」
私は気に捲してた。
「父さんはあなたを探してたんじゃないの。
居所をってたのよ。毎、欠かさずにおを送って、あなたを養ってたんじゃない! それなのに、どうして度も帰ってこなかったの? どうして母さんの葬式にすら来なかったのよ!」