みかん小説
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"失踪した兄へ父が送り続けた金" 第1話

父の川郎が歳で息を引き取ったのは、残暑のまだ厳しいの初めだった。

告別式を終えて目。 杉並にある築い実には、消え残った線の匂いと、段ボール箱の乾いたの匂いだけが充満していた。

「姉さん、こっちの棚は全部空にしていいんだな」

居の畳ので、弟の修平が膝をついたまま声をかけてきた。 喪のズボンを脱ぎ捨て、あせたポロシャツを着た修平の首筋には、びっしりと汗が浮いている。 私よりつの歳。 けれど、ここ数の両親の介護ですっかりやせ細り、目元の彫りだけが異様にくなっていた。

「うん。産が来週、査定に来るから。とにかく売れる状態にしておかないと」

私は斎のに腰をろし、父が遺した類をひたすら分別していた。

このを売ることに、弟も私も迷いはなかった。 母はに脳梗塞で倒れ、寝たきりのままに界した。 そして先週、父も胃がんで逝った。

がいなくなったこの広すぎる本には、何の未練もない。 あるのは、に突然いなくなった男——兄の也が残していった、たい空だけだった。

兄がをたのは、私が歳、修平が歳のだった。

当歳だった也は、父がちげた建築具の卸会社で専務として働き、所でも評判の優秀な跡取りだった。

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ところが、ある突然、父の会社の役員を辞め、自分の私物をすべてトランクに詰めて消えた。

置きも、き先もなかった。 母が泣き崩れて寝込んでも、父が警察に捜索願をしても、兄の方は杳としてれなかった。

母の葬儀にも来なかった。 父が倒れ、病院の集治療で管だらけになっていたときも、兄は現れなかった。

『あの男は、最初からこのを捨てる気だったんだ』

親戚の誰もがそう言った。 母も最期は兄の名を呼ぶのをやめ、弟の修平だけが学を退して業を継ぎ、父の借と母の介護をひとりで背負い続けた。

兄は、族を切り捨てた酷な。 私ので、その認識は、度も揺らいだことがなかった。

父の斎は、くなるの空気がそのまま凍りついたようだった。 な枚板の机の引きしをけると、古い印鑑や納税通の束に混ざって、茶の封筒がつ、番奥の隙に押し込まれていた。

輪ゴムで留められたそれを引っ張りすと、経劣化で輪ゴムがぷつりと切れた。 から滑りてきたのは、何枚ものいカーボンだった。

の『振込受取』の束。

付は、のから始まっていた。 に度。 額は最初のが万円。 目からは万円。 父が会社の縮で苦しんでいたも、母が術を受けたも、度も途切れていない。

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そして、振込を見て、私の指先が止まった。

。

兄の誕の、翌だった。

番しい控えは、父が息を引き取るわずかヶのものだった。 震えるでかれた父の跡。 振込先は、個名ではなかった。 方の聞いたこともない会社名義。

そして、の摘欄には、まったく同じ文字が、几帳面にき込まれていた。

『活』

血の気が引いていくのが自分でもわかった。 父は、警察にくたびに「息子のがかりはないか」とをげていた。 正のたびに神社へき、男の無事を祈る絵馬をいていた。

その裏で、父は毎のこの、誰かにを送り続けていたのだ。

「修平」

私は喉の奥から絞りすようにして、居に向かって声をかけた。

「ちょっと、これ見て」

修平がい取りで斎に入ってきた。 額の汗をの甲でぬぐい、私の元にあるの束を見ろす。

「何だよ。古い領収なら、全部あっちのゴミ袋に——」

言いかけて、修平の言葉が途切れた。

番にあった最の振込控えを見た瞬、弟の顔かららかにが消えた。 黒目が刻みに揺れ、喉仏がごくりとする。

「……どこにあった、それ」

「父さんの机の、番奥の引きし」

私はちがり、弟の目を見つめた。

「毎、お兄ちゃんの誕の翌に振り込まれてる。

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