みかん小説
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"追い出した妻の味を食べる夫" 第19話

その目には、本物の涙が浮かんでいた。

「ニンジンが、入っていた。優が嫌いだったニンジンが……細かく刻まれて、甘く炒められて、肉のに消えていた。べた瞬、いしたんだ。優が昔、俺の皿にこっそりハンバーグを移して、『お父さん、これ美しいよ』って笑っていたことを」

健の拳が、スーツの太ももので固く握りしめられた。

「俺は……あのの、自分が何をべていたのか、度もろうとしなかった。誰がどんないでそのニンジンをすりろしていたのか、考えたこともなかった。全部、最初からそこにあるのが当然だとっていた」

男の喉から、嗚咽のような掠れた呼吸が漏れた。

「失ってから……全部消えてから、初めて気づいたんだ。俺の活のすべては、おが毎毎、自分のを汚して作ってくれていたものだったんだと……。おがいなければ、あのには最初から何つしなかったんだと……!」

「そう」

私はく息を吸い、そして静かに吐きした。

「あなたがそれを理解できたなら、もう分よ」

「み咲……!」

健が、すがるように両を伸ばしてきた。

「やり直せないか。もう度、俺のそばに戻ってきてくれないか。今ならわかる。おがどれだけ切なだったか……これからは、何自由ない活を約束する。あのを辞めて、俺のところへ――」

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「お断りします」

私は歩がり、伸ばされたそのを、触れさせることすらなく遮った。

健のが、空を切って止まった。

絶望に染まった目で、私を見つめている。

「なぜだ……? まだ、俺をんでいるのか? あのののことを、許せないのか?」

「んでなんかいませんよ」

私はさく首を横に振った。

「の私は、確かにあなたを憎んでいました。でも、鳥鉄の厨で働いて、ようやくわかったんです。あの、あなたに依して、自分ののすべてをあなたの嫌に預けていたのは、私自のさだったって」

私は自分の両を広げ、のひらを見つめた。

傷の痕、包丁の切り傷、骨太になった関節。

「このはね、健さん。誰かに養ってもらうためのじゃないの。自分の力で仕込みをして、原価を計算して、美いものを作って、自分のできていくためのなの。私は今の自分のが、誇らしいのよ」

「み咲……」

「かけて、あなたがようやく私の料理の価値に気づいたのなら、それはそれで良かった。でも、それは過の清算であって、未来を買い戻すためのチケットじゃないわ」

私はツールバッグを肩にかけ直した。

そして、ビジネスライクな、静な声で告げた。

「オオタニ・フードクリエイトからのの仕し弁当ですが、来以も継続させていただきます」

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健が驚いたように顔をげた。

「本当か……? 作って、くれるのか?」

「ええ。鳥鉄にとって、の固定売は事な経営基盤ですから。ビジネスとして、きっちり契約を全うします」

「あ、ありがとう……!」

健の顔に、堵のが差しかけた。

だが、私はその希望を、容赦なく断ち切った。

「ただし。条件がつあります」

「条件……?」

「来週から、【社】のシールは廃止します」

健の表が凍りついた。

「の弁当は、すべて同じメニュー、同じ仕様で納品します。どれが社に運ばれ、どれが般社員の渡されるかは、総務の配膳係のランダムです。私があなたの好みや体調にわせて汁を変えたり、特別な副菜を入れることは、度とありません」

「そんな……」

「私は、鳥鉄のお客さん全員のためにご飯を作っているんです。あなただけの専属料理番でいるは、に終わりました」

健は元をで覆い、よろめくように壁に背を預けた。

特権の剥奪。

男が最まで縋り付こうとしていた「自分だけの特別な繋がり」というが、完全に々に砕け散った瞬だった。

「お元気で、社。美しい唐揚げを、これからもお届けします」

私は々と、完璧な礼法で礼した。

そして、振り返ることなく歩きした。

「み咲……!」

背から呼ぶ声が聞こえたが、私のが止まることはなかった。

コツコツと響く私の靴音は、迷いなく、方の非常のに向かって真っ直ぐにんでいった。

季節が巡り、がまり、が訪れ、そして再び柔らかながやってきた。

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