"追い出した妻の味を食べる夫" 第15話
「はあ!?」
鉄さんが素っ頓狂な声をげた。
「選したのは、どなたですか」
私がエプロンをえながら静かに尋ねると、宮本さんは居まいを正し、まっすぐに私を見つめた。
「健社、ご自です」
内の空気が、シンと静まり返った。
「社からのいご向です。『鳥鉄のは、が社が目指すべきの原点である』と。つきましては、来週曜に帝国ホテルの宴会でわれるレセプションに、代表の田様、そして――」
宮本さんは、私の目をじっと見据えた。
「毎、社の弁当を担当してくださっている調理の方を、特別ゲストとしてご招待したいと。会内に『鳥鉄特設ブース』を設け、ご来の数百名の関係者に、そので仕込んだ料理を振るっていただきたいというご依頼です」
招待状。
それは、健が私に投げつけてきた、最のだった。
弁当箱の底の付箋という、全な暗に隠れることをやめ、公のに私を引きずりすための台装置。
『私はここにいる。おもそこからてこい』
そう言わんばかりの、あまりにも健らしい、引で計算いやり方だった。
「断る」
鉄さんが即座に言い放った。
「そんな見世物みたいな真似、受けるわけがねえだろ。賞だか何だからねえが、を当たってもらいな」
「将、そこをなんとか……! これは社直々の特命なんです! もし断られたら、私の首がびます!」
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宮本さんが必にをげる。
鉄さんは眉にい皺を刻み、頑として首を縦に振ろうとはしなかった。
「おさんの首がぼうがったこっちゃねえ。うちは町の唐揚げだ。ホテルの宴会なんてガラじゃねえんだよ。帰んな」
宮本さんは絶望な表を浮かべ、肩を落とした。
そのだった。
「……宮本さん」
私が静かにをいた。
鉄さんがギョッとしたように私を振り返る。
「おい、み咲!」
私は鉄さんの線を受け止め、それから宮本さんに向き直った。
「そのご招待、お受けします」
「本当ですか!?」
宮本さんの顔に、パッとが差した。
「み咲! お、正気か!? あいつが何のつもりでおを呼びそうとしてるか、わかってんのか!」
鉄さんがカウンターを叩いて鳴った。
「わかっています、将」
私の声は、自分でも驚くほど静かで、点の曇りもなかった。
「でも、これは鳥鉄の仕事です。将が塩にかけて育てた唐揚げのを、数百のたちにべてもらえるチャンスです。そして――」
私は宮本さんのから、文字の招待状を受け取った。
質なのたい触が、指先に伝わってくる。
「私自が、終わらせなければならないんです」
弁当箱の底に隠れて、覚の記憶を探りうような真似は、もう終わりだ。
あの、の裏で方に閉ざされた扉を、今度は私ので、正面からけにかなければならない。
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逃げるためでも、復讐するためでもない。
に置きりにしてきた自分自を、あの男のから連れ戻すために。
「将、緒にってくれますね?」
私が微笑むと、鉄さんは顔を歪め、く、きなため息を吐きした。
「……ったく、頑固なところまで俺に似ちまいやがって」
鉄さんはを乱暴に掻きむしり、宮本さんをギロリと睨みつけた。
「おい、宮本! ホテルの厨の力がりねえなんて言い訳は通用しねえぞ! うちの鍋と油、全部持ち込ませろ!」
「は、はい! すべて配いたします!」
宮本さんは何度もをげて、をてった。
嵐のようなが過ぎり、厨に再び静けさが戻った。
私は招待状を胸に抱き、の窓からを見げた。
ひとつない青空が、どこまでもく広がっていた。
決戦のは、週。
健。
、あなたが目を背け続けてきた現実を、今度こそ、その目でまっすぐに見届けてもらう。
ホテルの宴会の控には、違いなほど濃な醤油とニンニクの匂いが漂っていた。
都の等に建つ名ホテルの鉄骨構造の搬入から、鉄さんとで仕込み済みの寸胴鍋と業務用のフライヤーを運び込んだのは、午のことだった。
面に敷き詰められた純の養シートのに、使い込まれた鳥鉄のステンレス台を据え付ける。
「おい、み咲。加減はどうだ?」
鉄さんがく唸るような声で尋ねてきた。