"追い出した妻の味を食べる夫" 第14話
「誰がのために、娘同然のおを切り売りするような真似をするか」
「将……」
「違約なら、俺が払う。うちの貯えを崩せば、ヶやヶの違約くらいどうとでもなる。そんなはしたのために、おが毎あんな幽霊みたいな顔して包丁握るのを見てられるかってんだ」
鉄さんはを乗りし、荒れた太い指で、私の目のの畳をトンと叩いた。
「み咲、よく聞け」
「……はい」
「おは、何のためにあの弁当を作ってるんだ?」
鉄さんの問いが、鋭い針のように私の胸の真んに突き刺さった。
「あいつを悔させたいのか? 『捨てた女がこれだけの飯を作るようになった』って、見せつけて見返してやりたいのか? ……それとも、まだ自分を許せてねえのか?」
自分を、許せていない。
その言葉を聞いた瞬、私のの奥で、何かが音をてて崩れ落ちた。
「私……」
声が震えた。涙が、ボロボロと畳のに落ちて染みを作っていく。
「私……ずっと、あいつをんでいました。優がんだに、ゴミみたいに私を捨てたあいつを……許さないって、それだけを支えにして、ここで働いてきました」
私は両で顔を覆った。
「でも……違ったんです。私、あいつを憎むことで、逃げていただけなんです」
ずっと、の奥底に閉じ込めていた真実が、堰を切ったように溢れした。
「優を守れなかったのは、私なんです。
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あの、優が事故に遭った……私が『気をつけてね』って見送ったのに、私がもっとちゃんと注していれば、あの子はなずに済んだんじゃないかって……。健が私を責めたとき、のどこかで『その通りだ』ってってしまったんです」
健のあの酷な言葉。
『おは無駄なコストだ』 『おには何の価値もない』
あの言葉に傷つきながら、同に私は、その言葉に縋っていたのだ。
健が私を「悪者」にして追いしてくれたから、私は「理尽に捨てられた劇の妻」になることができた。
そうしていれば、自分が母親として娘を守れなかったという、耐え難い罪悪から目を背けることができたからだ。
「あいつを記憶から消そうとすればするほど、優の記憶まで消えてしまいそうで……。だから私、あいつに弁当を作りながら……優のことをいしていたかったんです。あのをっているのは、世界で私と、あいつのだけだから……!」
泣き崩れる私の背に、いが置かれた。
鉄さんの、骨太で温かいだった。
「……み咲」
鉄さんは、静かに言った。
「おはもう、分に苦しんだよ。優ちゃんもおを責めちゃいねえ。おが作った飯をって、笑顔にならなかった客はもいねえんだ。おのは、誰かを呪うためのじゃねえ。をかすためのだ」
私は畳に額を擦り付け、子供のように泣きじゃくった。
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、度も流せなかった、本当の涙だった。
健への憎しみでもなく、捨てられた屈辱でもない。
ただ、娘をしていたという、痛切で純粋なしみが、鉄さんの温もりので溶けしていった。
そのの夜、私は久しぶりに階の自で、優の写真てを抱きしめて眠った。
たいは止み、夜空にはの切れから、柔らかなかりが差し込んでいた。
翌週の曜。
事態は、唐突にたな局面を迎えた。
過ぎ、オオタニ・フードクリエイトの購買担当である宮本さんが、スーツの襟を正し、ひどく改まった様子で鳥鉄を訪れたのだ。
いつもの弁当の回収ではない。
そのには、質なで作られた、文字の箔押しが施された封筒が握られていた。
「将、そしてさん」
宮本さんは、緊張でし張った面持ちで、カウンター越しにその封筒を差しした。
「株式会社オオタニ・フードクリエイト、創周記レセプションのご案内です」
鉄さんが眉をひそめ、伝票を拭いていたを止めた。
「レセプション? うちみたいなさな唐揚げに、そんな層なもんが何の関係あんだよ」
宮本さんは々とをげた。
「実は……今回の周をに、が社が提携しているサプライヤーのから、特に品質と顧客満度において卓越した貢献をいただいた企業を表彰することになりまして。
鳥鉄様が、その『最優秀パートナー賞』に選されたのです」