"追い出した妻の味を食べる夫" 第12話
翌朝。
曜の午。
静まり返った厨で、私は鶏の胸肉をミンチにする作業をしていた。
包丁を本使い、まな板ので肉を叩く。
トントントントン、と激しい属音が、夜けの内に響き渡る。
作るものは、決まっていた。
鶏のつくね。
優が、何よりも好きだった料理だ。
鶏の挽肉に、細かく刻んで茹でた蓮根と、叩いた骨を混ぜ込む。
シャキシャキとした蓮根の歯ごたえと、骨のこりこりとした。優はそれが面くてたまらないらしく、つくねを焼くりがリビングに漂うと、いつもスキップしながらキッチンへやってきたものだった。
『お母さん、今のつくね、お団子いくつ?』
『優の分はつよ。お父さんの分もつね』
『やったあ! 私、タレをスプーンでかけるお伝いする!』
さなでスプーンを握り、甘辛い醤油タレをさなつくねのに垂らしていた、幼い娘の丸い頬。
それを、仕事から帰ってきた健は、見向きもせずに聞を広げながら平らげていた。
『今の肉、骨がいな。もっと細かく砕け』
娘が懸命伝ったことなどりもせず、皿のにある料理の欠点だけを指摘して、分で席をっていた男。
私は、蓮根を刻んだ。
骨を叩いた。
挽肉に酒と姜汁を加え、粘りがるまでで捏ねげる。
のひらで丸め、串を打たずに平たい楕円形にえる。
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フライパンにく油を引き、両面をこんがりとばしく焼きげる。
醤油、醂、酒、そして砂糖を煮詰めた、照りのある甘辛いタレを絡める。
ばしい、甘辛い匂いがちった。
優の記憶そのものの匂いだった。
私は、個の般社員向けの弁当には、板メニューである唐揚げを詰めた。
そして、最のつ。
【社】の箱にだけ、唐揚げを入れず、ご飯の横のメインの所に、つの鶏つくねを並べた。
艶やかな飴のタレを纏った、蓮根と骨のつくね。
付箋への返事はかない。
言葉など、文字もいらない。
ただ、このつくねをに運んだとき、健が何をいすか。
あの、自分がどれほど残酷に踏みにじり、どれほど勝に捨てったものが何であったのかを、喉に詰まるほどわえばいい。
「よし、仕込み完だ」
配達のに弁当を積み込む鉄さんの背を見送りながら、私は厨の壁にもたれかかり、く息を吐きした。
全の力が抜けていくようだった。
午。
回収された容器が戻ってきた。
私は、震えるをにめ、社の箱をに取った。
ずしりと、わずかにみがあった。
けるのが、怖かった。
もし、もをつけていなかったら。
あるいは、またあのっぺらい傷な言葉が、のにき殴られていたら。
私は蓋の縁に指をかけ、を決してに押しげた。
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を見た瞬、私の息が止まった。
つのつくねは、綺麗に消えていた。
ご飯も、添えてあった青菜も、すべて完されていた。
そして――。
いつもなら底に貼り付けられているはずの、あのの付箋が、なかった。
どこにも、枚もなかった。
「……え?」
私は箱を裏返し、蓋の裏を確認し、周囲のコンテナのまで探した。
だが、メモはどこにも落ちていなかった。
ただ、空になったプラスチックの容器の端に、うっすらと、湿った指の跡が残っていた。
何度も、何度も、箱の縁をく握りしめたような、擦れた跡。
健は、何もけなかったのだ。
あのつくねをにした瞬、男の言葉は奪われたのだ。
傲な講釈も、都のいい懐古も、んだ娘の名を軽々しく持ちす傷も、すべてが喉の奥で詰まり、文字にすることすらできなくなったのだ。
勝った、とった。
胸の奥を、たい刃物のようなが突き抜けた。
ざまあみろ、とった。
おが捨てた女の作った飯で、おが踏み躙った娘の記憶に殴りつけられて、どんな顔をしてその広い社で、ち尽くしたのか。
だが、そのは、ほんの瞬しか続かなかった。
次の瞬、私の胸を満たしたのは、底の抜けた桶のようにえ切った、圧倒な虚無だった。
私は、何をやっているのか。
あいつに悔をさせるために、あいつを苦しめるために、私は優の好きだった料理を具として使ったのか?