"追い出した妻の味を食べる夫" 第8話
そのの夜、私は仕込みの蔵庫ので、翌のメインディッシュを考えた。
曜のメニュー。
私のは、牛豚のい挽き肉のパックに伸びていた。
ハンバーグ。
の卓で、に度、必ず作っていた料理だった。
そして、そのハンバーグには、健が決してることのなかった、ある「秘密」があった。
翌朝、。
私は静まり返った厨で、まな板のに本のニンジンを置いた。
優は、幼い頃からニンジンがの苦だった。
しでもニンジンの赤い欠片が料理に入っていると、さなで器用にそれを箸でつまみし、困ったような顔で私を見げたものだった。
『お母さん、これ、どうしてもべなきゃダメ?』
『優、ニンジンはお肌にも目にもいいのよ。しだけでも頑張ってみよう?』
そう言うと、隣の席で聞を広げていた健が、舌打ち混じりに吐き捨てた。
『朝から甘やかすな。わないなら飯をげろ。好き嫌いをするような奴は、将来ろくなにならん』
健にとって、娘の好き嫌いすら「教育の失敗」であり「非効率なロス」だった。
優がびくっと肩を竦め、涙目になるのを見るのが、私は何よりも辛かった。
だから私は、夫をねた。
ニンジンをただ微切りにするのではない。
まず極細のおろしですりろし、それをさらに細かい目のガーゼで絞って分を抜く。
広告
残った細かな繊維を、オリーブオイルとごく量の蜂蜜で、透き通るような飴になるまでじっくりとで炒める。
そうすると、ニンジンの青臭さは完全に消え、玉ねぎ以のい甘みとコクだけが残る。
それを、ました炒め玉ねぎと挽肉のに、たっぷりと練り込むのだ。
肉だねの見た目は、普通のハンバーグと何つ変わらない。
焼きがったハンバーグをに、優はいつも目を丸くしてんでいた。
『お母さん、これ美しい! ニンジン入ってないよね?』
『うん、入ってないよ。優のために特別に作ったハンバーグだからね』
『やったあ!』
無邪気に笑う優の笑顔が、胸の奥で痛いほど鮮やかによみがえる。
優は、私が打ちした「秘密」を事に抱えながら、々、健が聞に目を落としている隙を見計らって、自分がべきれなかったおかずを父親の皿にそっと移したりしていた。
健は何も気づかず、娘のさな企みにも目を留めず、無言でそれをに運んでいた。
あのには、健が度も見ようとしなかった「族の」が、確かにしていたのだ。
私は、包丁の背でニンジンを叩き、すりろした。
飴になるまで炒め、挽肉とわせる。
ナツメグと黒胡椒、量のクリーム。そして、あの甘いニンジンのペースト。
空気を抜きながらのひらでリズミカルに叩き、楕円形に成形する。
広告
フライパンにを入れ、じっくりと焼きをつけていく。肉汁が閉じ込められ、ふっくらと膨らんでいくハンバーグのりが、厨いっぱいに満ちていった。
個の弁当には、通常の玉ねぎ主体のハンバーグを詰めた。
そして、最のつ――【社】の箱にだけ、私はあのニンジンを限界まで練り込んだ、特製のハンバーグを収めた。
ソースは、ケチャップとウスターソースに、赤ワインとしの醤油を煮詰めた、あの頃と寸分違わぬ自製デミグラスソース。
蓋を閉める私の指先は、たく引き締まっていた。
べてみなさい、健。
おが「無駄なコスト」として切り捨てた女と、おが「投資対象」としてしか見ていなかった娘が、かつておの目ので分けっていただ。
おの傲な舌で、それが何のなのか、いせるものならいしてみるがいい。
午過ぎ。
オオタニ・フードクリエイト本社階、社。
健のデスクのに、いつもの黒い弁当箱が置かれていた。
買いしのついでに配達の様子を見にった鉄さんによれば、宮本さんは社へ弁当を運ぶ際、いつも以に緊張した面持ちだったという。
私は鳥鉄の厨で、油の汚れを落としながら、計の針を見つめていた。
分。
今頃、蓋をけているはずだ。
、に運んだはずだ。
その、健ののに何が来するのか。
ただの「美いハンバーグ」