みかん小説
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"追い出した妻の味を食べる夫" 第6話

『今の卵焼き、し汁がすぎる。箸で持ったときに崩れる。あと、ネギの刻みが粗い』

それを見た瞬、カッとに血がるのをじた。

「……何よ、それ」

わず、誰もいない洗いでさな声が漏れた。

汁巻き卵が汁をたっぷり吸って柔らかいのは、鳥鉄の常連客にばれている仕様だ。箸で持ちげたときにじわりと滲みる汁の旨こそが、鉄さんのこだわりでもあった。

それを、箸で崩れるからと文句をつけてくる。

しかも、ネギの刻み方。

健は昔から、薬のネギがしでも太いとあからさまに嫌な顔をした。

『おい、この髪ネギ、芯が残っているぞ。繊維を断ち切るように、もっとく引けといつも言っているだろう』

そう言って、箸の先で器の端にネギを寄せていたの姿が、鮮に脳裏をよぎった。

翌朝、私は仕込みの台のにった。

卵を割りほぐし、汁をわせる。いつも通りの分量で取った昆布と鰹のわせ汁を、ボウルに注ごうとした瞬、私のが瞬止まった。

――汁をさじ杯減らし、片栗をほんのかき杯だけ加える。

そうすれば、分が逃げず、箸でしっかり挟める固さになる。

そして、刻みネギ。

包丁を握り直した私は、まな板のの青ネギを、息を止めるようにして極細に刻み始めた。トントントン、と軽な音をてて、透き通るようなさの輪切りが積みがっていく。

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作業を終えた瞬、私は自分の元を見て、激しい自己嫌悪に襲われた。

何をやっているのか。

なぜ、あの男の指図通りにをかしているのか。

私は鳥鉄のを作っているはずだ。なぜ、の染み付いた習性のように、あの男の好みにわせて汁の量を調し、ネギを細かく刻んでいるのか。

『み咲ちゃん、誰かのためにご飯を作るのは尊いことだよ。でもね、自分を消してまで尽くしちゃ駄目なんだよ』

良子さんの声がの奥で響いた。

私は唇を噛み締め、刻んだばかりの極細のネギを、自分のまかない用の鉢にすべて払い落とした。

そして、わざと普段通りの、ざっくりとした切りにしたネギを、社の弁当の副菜に散らした。

汁巻き卵も、鉄さんがいつも作っている通りの、ぷるぷるとした柔らかい配のまま焼きげた。

あの男の言いなりになどなるものか。

私はもう、あなたの召使いでも、都のいい料理番でもない。

そう自分に言い聞かせて蓋を閉め、配達用のコンテナに積み込んだ。

だが、そのの夕方。

戻ってきた弁当箱をけたとき、私の目にび込んできたのは、予のメモだった。

『今の卵焼きは良かった。昨の崩れやすさがなくなっていた。汁の配を変えたのか? ネギもこのくらい細いほうがいい』

メモを読んだ瞬、私ののが真っになった。

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配など変えていない。ネギも細く刻んではいない。

健は、自分が指摘したことで相がを加えたとい込み、勝に「改善された」と錯覚しているのだ。

から、何も変わっていなかった。

健はいつだってそうだった。

自分がをし、部や妻を指導し、自分のい通りに世界をかしているという実――その万能に酔いしれているだけで、目のにある本当のや、の顔など、最初から見ようともしていなかったのだ。

りよりも先に、い虚しさが胸の底から湧きがってきた。

私はその付箋をくしゃくしゃに丸め、ゴミ箱の奥くに投げ捨てた。

それから数、付箋は毎のように届くようになった。

『今の煮物、牛蒡の汁が綺麗に抜けている』

『噌汁のわせ噌、赤の比率をもうしげたほうが肉料理にはう』

『曜の唐揚げ、揚げ油にし胡麻油を混ぜただろう。りが良かった』

まるで、自分がこの弁当の監修者であるかのような振りだった。

鳥鉄ののには、そんなメモなど枚も入っていない。般の社員たちは「今も美しかった」「唐揚げ最」と、宮本さんを通じて笑顔で伝えてくれるだけだ。

社のあの男だけが、で片を通じた「対話」を続けていた。

私はそのメモに、度も返事をかなかった。

だが、無すればするほど、私のは乱された。

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