"追い出した妻の味を食べる夫" 第5話
鉄さんと良子さんは、買いしと仕込みのの休憩で階にがっている。
私は黙々と、油で汚れた容器をにつけ、スポンジで洗っていった。
ねられた容器のを崩していくと、番底から、見覚えのある赤いマスキングテープが貼られた箱がてきた。
【社】。
蓋をける。
綺麗だった。
豚肉も、玉ねぎの欠片も、添えてあった千切りキャベツの最の筋までも、綺麗に平らげられていた。米粒つ残っていない。
胸の奥を、たいとい波が同に通り抜けたような、奇妙な覚に襲われた。
そのだった。
空になった容器の底に、何かが貼り付いているのが見えた。
プラスチックの底、姜焼きのタレがく残ったそのに、つ折りにされたさな片が置かれていた。
社用の、いの付箋だった。
滴でし湿っている。
私はゴム袋をし、震える指先でその片をつまみげた。
ゆっくりと、折り目を広げる。
そこにかれていたのは、黒いボールペンの文字だった。
角ばった、がりの、し癖のある跡。
、役所への提類や、娘の希望調査票の保護者欄で、嫌というほど見せつけられてきた、あの男の字だった。
殴りきのような、い文だけが記されていた。
『今の姜焼きの、昔べたことがある。』
それだけだった。
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「……っ」
喉の奥から、い息が漏れた。
臓が、のすぐろで激しく鐘を打つように脈打ち始めた。
蛇から流れ続けるのが、ステンレスのシンクを叩くジャーという音だけが、やけにきく厨に響いている。
昔、べたことがある。
どのが、それを言うのか。
べたことがあるのではない。おはそれを、毎当たりのようにに運び、度もわおうとせず、度も謝せず、最にはそのを作っていたを、ゴミのようにのに放りしたのだ。
のの付箋が、指先の震えで微かに揺れた。
健は、何をってこのメモを残したのか。
ただの気まぐれか。
それとも、何かを疑い始めているのか。
来週からは、本契約のが始まる。
曜になれば、またしい弁当箱が、あの階の社へと運ばれていく。
私は、濡れたシンクのにち尽くしたまま、ののさな片を、指がくなるほどく握りしめた。
本契約の初、オオタニ・フードクリエイトの本社へ納品されたの弁当は、何事もなく受け取られた。
宮本さんからの連絡によれば、社内での評判は々で、社員堂の改修が終わるまでの暫定措置のはずだったものが、正式にヶの専属納品契約として類が交わされたという。
「これでうちの昼の売も、ひと息つけるな」
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鉄さんは納品伝票を片に、厨の隅で満そうに煙を燻らせていた。
「み咲、おさんが朝の仕込みを仕切ってくれたおかげだ。母ちゃんも仕分けが楽になったってんでる」
「いえ、将の唐揚げが板だからですよ。私はただ、添え物との組みてをやっているだけです」
私は笑って答えながら、ステンレスの作業台のに並んだ、回収の空き容器に目をやった。
個の容器。
その番に置かれた、赤いシールの貼られた箱。
【社】。
曜に戻ってきた、あのの付箋――『今の姜焼きの、昔べたことがある』とかれた片は、私のエプロンのポケットの奥にしまってあった。
捨てる気にもなれず、かといって机のに広げて眺める気にもなれず、ただ体温を吸ってくしゃくしゃになったの触だけが、私の腰のあたりに張り付いていた。
あの男が何を考えているのか、私には見当もつかなかった。
単にのどこかの定でべた記憶とねわせているだけかもしれない。それとも、私が作った料理だと々勘づいて、探りを入れるために投げて寄越したなのか。
どちらにしても、私には関係のないことのはずだった。
私はもう、あの男の妻ではない。
鳥鉄の雇われ員であり、毎のノルマをこなすの調理だ。
だが、現実はそう簡単に割り切れるものではなかった。
契約週目の曜。
回収された社の弁当箱の蓋の裏に、再びあのの付箋が貼られていた。