"追い出した妻の味を食べる夫" 第4話
「み咲ちゃん、本当に丈夫なの? 企業の社さんなんて、舌が肥えてて難癖つけてくるかもしれないよ」
「丈夫です、良子さん」
私は湯みの温もりを掌でじながら、さく微笑んだ。
肥えているはずがない。
あの男が、毎べていたのは、私の作った庭料理だ。
級フレンチや料亭のをってはいても、彼が本当に慣れ親しんでいるのは、調料の配からの通し加減に至るまで、すべて私が管理していたのはずだった。
そして、そのを作っていたを、彼は名すら呼ばずに捨てたのだ。
翌週の曜から、週のトライアルが始まった。
朝。
まだが眠っている、厨の蛍灯ので作業を始した。
個の角いプラスチック容器が、作業台のにずらりと並ぶ。
曜は、鳥鉄の板である唐揚げ弁当。
もも肉の余分な脂を丁寧に取り除き、姜と醤油、量の酒とごま油でをつける。度揚げしてをカラリと仕げ、自製の甘酢タレを別添えにする。
副菜には、汁をしっかりと含ませた切り干し根と、青菜のお浸し。
個の弁当箱を際よく詰め終え、最に残ったつの箱の蓋に、私はさく切り取った赤いマスキングテープを貼った。
黒い油性ペンで、文字をく。
【社】
その文字を、私はしばらくの、無言で見つめた。
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この蓋をけるのは、あの男だ。
、私を裏に蹴り倒したあの男が、今、私が朝から汗を流して作ったこの弁当を、自分のデスクのでける。
私の名も、私の顔も、何つらずに。
「よし、来たぞ。み咲、配達のに積み込むぞ」
鉄さんの声でに返った。
「はい、今きます!」
私は赤いシールの貼られた弁当箱を、番のコンテナに収めた。
初の配達が終わり、昼過ぎに空になった容器が回収されて戻ってきた。
個の容器は、どれも見事に空になっていた。
宮本さんから話が入った。
『社、唐揚げを綺麗に完されました! いつもなら半分以残すのに、今は珍しく何も文句をおっしゃいませんでしたよ。もよろしくお願いします!』
受話器を置いたあと、私はたいで空の容器を洗いながら、乾いた笑いが込みげてくるのを止められなかった。
皮肉なものだ。
妻だった頃は、「が濃い」「油っこい」と粗探しばかりしていた男が、注の弁当としてされた同じ付けの唐揚げを、文句も言わずに綺麗に平らげている。
目は、鯖の噌煮。
目は、おろしハンバーグ。
曜は、鶏肉と根菜の黒酢炒め。
私はあえて、過にの卓で頻繁にしていた定番の庭料理を、しずつプロの仕込みに昇華させたメニューを組み込んでいった。
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そして曜。
週のトライアルの最終。
メインのおかずは、豚の姜焼きだった。
豚の肩ロース肉を使い、タレにはすりおろした姜の絞り汁だけでなく、繊維ごとすりろした姜をたっぷりと使う。そして、隠しに、ほんのしのすりおろしリンゴと、ごくわずかな丁噌を加える。
これは、健がまだ事業を始めたばかりの若い頃、夜遅くに帰宅して「胃がい、でも肉がいたい」と溢したときに、私が夫をねて作りげた、のオリジナルレシピだった。
玉ねぎは甘みがるまで炒めすぎず、シャキシャキとしたを残す。肉はタレに漬け込まず、で表面を焼き固めてから最にタレを絡めて、タレの分で肉がくなるのを防ぐ。
の記憶が、指先に染み付いていた。
考えなくても、体が勝にその調料の配を再現していく。
私は【社】のシールを貼った弁当箱の真んに、姜焼きを丁寧に盛り付けた。
ご飯のには、自製の梅をつ。
蓋を閉める瞬、ほんの瞬だけ、胸の奥が微かに震えた。
もし、気づかれたらどうするのか。
いや、気づくはずがない。
あの男にとって、私は空気のようなだったのだ。誰が作ったかも気にしていない事のなど、覚えているはずがない。
半。
回収された個の空き容器が、鳥鉄の裏に運ばれてきた。
厨には私だけだった。