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"父の葬儀で離婚を迫った夫" 第17話

その瞳の奥には、彼を突きかしてきた『成功への執着』と、今まさに失われようとしている『自分の血を分けた命』への恐怖が、激しく渦巻いていた。

かつての港なら、迷うことなく事業を選んでいただろう。 美優のことも、子供のことも、誰かにを握らせて代わりに病院へかせ、自分は涼しい顔で調印式の壇にっていたはずだ。 の痛みや尊厳を犠牲にして、自分のを築くことになんの痛痒もじない――それが、私のる坂港という男だった。

だが、私は言も発しなかった。 「病院へけ」とも、「仕事を取れ」とも言わない。 ただ、たく澄んだ瞳で、彼がどちらを選ぶのかを静かに見据えていた。

「俺は……」

港が両で顔を覆った。 指のから、荒い息が漏れる。

「俺は、ずっと……自分のを守ることばかり考えてきた。坂をきくして、流の仲入りをして、誰からも見されない男になりたかった……。そのためなら、おを蔑ろにしても、母さんの言いなりになっても、何ともっていなかったんだ」

港の肩が、激しくした。

「でもな……あの子がんだら……俺は、本当に何のためにきてるのか、分からなくなる……」

港は顔をげた。 その目には、真っ赤な血りと、涙が滲んでいた。 傲な社でも、母親の操り形でもない。 の無力な男の、剥きしの顔だった。

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「彩佳。俺は……病院へく」

その言葉がた瞬、彼のの何かが音をててれたようだった。

「プロジェクトは、失ったらまたからやり直せばいい。だが……子供の命は、今夜しかないんだ」

私は、微かに息を吐いた。 の結婚活ので、彼が母親の顔でもなく、世体でもなく、自分自の志で選んだ初めての決断だった。

「分かりました」

私はデスクのから、冊の黒い革ファイルを取りげた。

「ってらっしゃい。美優さんと、赤ちゃんのために」

「……彩佳。調印式はどうなる? 相方に何て言えば……」

「あなたが配することではありません」

私はファイルを胸に抱き、静かに告げた。

「私は、契約に定められた役割を最まで全うします。坂建設の社夫として、調印式のを守ります。……あなたは、父親としての役割を果たしてきなさい」

港は目を見張り、信じられないものを見るように私を見つめた。 そして、く、くをげた。

「……すまない。ありがとう」

港は着を引っ掴み、夜の廊を駆けりていった。 玄関のドアが勢いよくき、のエンジン音がざかっていく。

静寂が戻った客で、私はデスクライトを灯した。 眠を取る気はなかった。 ファイルをき、都所に提する最終文、設計の修正覚、役員会議の委任状の控えを、枚枚、入りに確認していく。

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父が、私によく言っていた言葉がいされた。

『彩佳。を建てるはな、どんなに派な柱をてても、基礎に嘘があったら必ず傾く。仕事もも同じだ。最に残るのは、どれだけ真っ直ぐに図面を引いたかだけだ』

私は父の形見の万を握り、覚の余に最のチェックを入れた。 私のは、決して無駄ではなかった。 踏みにじられた過を嘆くのではなく、私自の誠実さで、この悪に美しい終止符を打つ。

の空が、み始めていた。

◇

午分。 町にある都所本社ビルの会議は、異様な緊張に包まれていた。

窓のには丸の内のオフィスが広がり、内には数の関係者が着席していた。 正面の壇には都所の植専務をはじめとするコンソーシアムの最幹部たちが居並び、プレス関係者のカメラが幾にも並んでいる。

だが、坂建設の席は、異様な事態に陥っていた。

「社はまだ来ないのか!? 話も繋がらないぞ!」 「専務、どうしますか! あと分で会です!」

坂建設の専務や役員たちが、脂汗を流しながら往往していた。 昨夜から港と連絡が取れず、パニック状態に陥っているのだ。 部の隅には、無理やり連れてこられた義母の子が、青ざめた顔で子に座り込んでいた。 息子のという致命な醜態に、あの傲な威勢は見るもなく、震えるでハンカチを握りしめている。

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