"父の葬儀で離婚を迫った夫" 第14話
「……彩佳? どうした、顔が悪いぞ」
化粧から戻ってきた港が、いぶかしげに私を覗き込んだ。 額の汗を拭い、ネクタイを締め直したその姿は、相変わらず虚栄に満ちた『社』の顔をしていた。
私はちがり、彼をまっすぐに見つめた。 りも、みもなかった。 ただ、い、い憐憫のが胸を満たしていた。
「いいえ。なんでもありません」
「そうか。さあ、帰るぞ。次の打せの準備がある」
先を歩く港の背を見つめながら、私はので静かに呟いた。
――あなたは、自分が何を捨てようとしているのか、本当に何つ分かっていないのね。
港が誇らしげに誇示しているそのは、すでに台から砂のように崩れ始めているというのに。
◇
『あと14』。
週を切ったあるの午、私は見らぬ番号からの着信を受けた。 画面に表示された番号にてみると、受話器の向こうから聞こえてきたのは、切迫した、どこかヒステリックな女の声だった。
『……先輩。今すぐ会えませんか』
桜井美優だった。
指定されたのは、坂建設のオフィスからしれた、通り沿いのにある喫茶だった。 暗い内の番奥の席に、美優は座っていた。
臨を迎え、今にもはち切れそうにせりした腹部。 顔は青く浮腫み、以の派なメイクは見るもなく、爪のマニキュアは剥げかけていた。
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私が席に着くと、彼女は血った目で私を激しく睨みつけた。
「何の用かしら。私は忙しいのだけれど」
私がバッグを膝のに置くと、美優はテーブルにを乗りし、震える声で詰問してきた。
「どうして……どうしてまだあのにいるんですか!?」
「港さんから聞いていないの? ヶの契約よ」
「嘘ばっかり!」
美優がわず声を張りげ、隣の席の客が驚いたように振り返った。美優は慌てて声を落としたが、その瞳に宿る焦燥は消えなかった。
「港さん、最全然私の部に来てくれないんです! 話しても『忙しい』『今は事な期だ』って切られるし、たまに来ても、イライラして母さんの愚痴ばっかり……! 『彩佳はそんなこと言わなかった』『彩佳ならこうしてくれた』って……何で、何で先輩の名ばっかりすのよ!」
私は無言でアイスティーのストローにをつけた。 美優の爪が、テーブルクロスにい込む。
「先輩、おでしょう!? 慰謝料を吊りげるために、わざと港さんのそばに居座って、私への当てつけをしてるんでしょう! 言っておきますけどね、この子は坂の正統な跡継ぎなんですよ! 港さんのご両親だって、男の子がまれるのをどれだけ待ちにしているか! 子供も産めないくせに、いつまで妻の座にしがみついてるのよ!」
以の私なら、その言葉に胸を切り裂かれていただろう。
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だが、今の私には、彼女の言葉がただのれな鳴にしか聞こえなかった。
「美優さん」
私は静かにグラスを置いた。
「あなた、本当に分からないの?」
「……何がよ」
「港さんはね、あなたのことも、そのお腹の子供のことも、これっぽっちもしてなんていないわよ」
美優の表が凍りついた。
「な……何を馬鹿なこと――」
「あのは、自分が社でいるための具として、跡継ぎという記号が欲しかっただけ。そして、自分の虚栄を満たすために、若くて従順なあなたを利用したの。……でも、いざ自分のが危うくなれば、臨のあなたをアパートに押し込め、者として隠し通そうとする。それが、あの男の本質よ」
「違う! 港さんは私をしてる! この子がまれたら、ちゃんと籍を入れてくれるって――」
「入籍なんて、させてもらえないわよ」
私は徹に、しかし残酷なまでの真実を告げた。
「お義母さんがどんなか、あなたももうっているでしょう? 自分のに沿わないは、政婦だろうが嫁だろうが徹底にいたぶり、使い潰すよ。私がった、あのに誰が入るとう? ……あなたよ。毎毎、朝から晩まであのの理尽な命令に耐え、子供の教育方針から乳の付けまでをされ、しでも反抗すれば『棒猫のくせに』となじられる。港さんは絶対にあなたを庇わないわ」
美優の呼吸が、荒く乱れ始めた。 彼女自、うすうすづいていたのだろう。 港の淡な態度。