みかん小説
本棚

"父の葬儀で離婚を迫った夫" 第13話

級なイタリア製スーツを着込んでいるものの、連の労からか頬はこけ、声には微かな焦燥が滲んでいる。

「……以の通り、期の縮と全管理体制の化を図り、万全の態勢で本契約に臨む所でございます」

港が々とをげると、正面に座る都所の植専務が静かに資料を置いた。

「分かりました、坂社。詳細な詰めは次回に回しましょう。本はここまでとします」

会議がおきになり、役員たちが々々退していく。 港は「し失礼します」とハンカチで額の汗を拭いながら、化粧へと急ぎで向かった。 極度の緊張による過敏性腸症候群を再発させているらしかった。

私は資料をまとめ、役員フロアの静かなラウンジで港を待つことにした。 ガラス張りの窓からは、に広がる座の並みが見渡せる。 父が若い頃、鳶職として建設に携わった古いビル群と、しくまれ変わろうとしている巨なの骨組みが混ざりっていた。

そのだった。

ラウンジの奥にあるVIP応接の扉がわずかにき、からく落ち着いた声が漏れ聞こえてきた。 都所の植専務と、資元である信託の役の声だった。

「……植さん、正直なところ、坂建設の線で本当に固めてよろしいのですかな?」

側の役が、懸を示すように問いかけていた。

広告

「坂社は確かにバイタリティはあるが、々スタンドプレーが目つ。拡線にりすぎて、資繰りにも危うい側面が見え隠れしている。林や鹿島のJVに切り替えた方が、全策ではないかね」

私のが、無識に止まった。 植専務が静かに珈琲カップをソーサーに置く音が響いた。

「確かに、経営者としての坂港単体を見れば、危うい男ですな。野ばかりが空回りし、現の細やかな歪みを見落とすタイプだ」

植専務の容赦ない評価に、私は息を呑んだ。 港は自分が完璧に信頼されているとい込んでいたが、百戦錬磨のデベロッパーの目はとっくに彼の本質を見抜いていたのだ。

だが、植専務はこう続けた。

「しかしね、渡辺さん。あの会社には、奥の条彩佳さんがいる」

「……奥方ですか?」

「ええ。半の展示設計の見直し案、ご覧になりましたか? 現の職の線から、将来な維持管理コストの削減に至るまで、驚くほど綿密な指摘が入っていた。あれをまとめたのは坂社ではない。彩佳さんです。……彼女は名と謳われた条正雄氏の娘だ。建築の現の酸いも甘いもっている」

植専務の静かで確信に満ちた声が、私の胸をく打った。

「それだけではない。うちの内をはじめ、コンソーシアムの役員夫たちへの気配り、細やかなのやり取り……あれは付け焼き刃の営業では決してできないことだ。

広告

坂港がいくら空回りをしても、あの奥方が綱を握り、ろ盾として控えている限り、現が暴することはない。々が信用枠を与えているのは、坂建設という器ではなく、あの夫妻が持つ『定』なのですよ」

「なるほど……。社が突っり、妻がそれを補正して盤にする。いわば、彼女自が坂建設の最の『与信』というわけですな」

「その通りです。彼女が隣にいる限り、このが沈むことはない」

の会話が別の話題へと移り、私は音を忍ばせてラウンジのソファへと戻った。

窓のの景が、滲んで見えた。 膝ので握りしめた指先が、微かに震えていた。

――私は、無価値などではなかった。

『子供が産めない女に、何の価値がある』 『俺のの汚点だ』 『飯をわせてもらっているくせに』

義母から、夫から、にわたって浴びせられ続けてきた罵詈雑言。 自分は坂に何も残せない、欠陥品なのだと、毎晩枕を濡らしていたあの々。 そのすべてが、偽りだったのだ。

私が夫を支え、顧客を気遣い、図面を読み込んで注ぎ込んできたのと恵。 それこそが、坂港を流の台に押しげ、彼に数億円の事業をもたらしていた本質だった。 彼は私の価値に気づかないどころか、それを自分の柄だと錯覚し、用済みになったとばかりに私をゴミのように捨てようとしたのだ。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: