"父の葬儀で離婚を迫った夫" 第11話
「頼まれなければ、何もしなくていいとっていたのですか?」
私のややかな声に、港は言葉を詰まらせた。
「会社を経営するというのは、あなたがで虚勢を張ることだけではありません。あなたがをげられない相にをげ、あなたが気づかない綻びを繕うがいたから、坂建設はここまで来られたのよ」
港は拳を握りしめ、唇を噛んだ。 反論しようとして、言葉が見つからないようだった。 彼のプライドは、今夜の来事によって内側から音をてて崩壊していた。
「おは……」
港が、迷うように、どこか懇願するようなを帯びた目で私を見た。
「昔から、そうやって俺を支えてくれていたんだな。……俺は、らなかった」
その声には、らかな揺と、遅すぎる悔の響きがあった。 彼が私をただの『女』として切り捨てようとしたその女が、実は自分の命綱を握っていたという事実。 失いかけて初めて、そのみに気づいた愚かな男の顔だった。
だが、私のには、何の慨も湧かなかった。
「ろうとしなかっただけでしょ」
私はバッグからスマートフォンを取りした。 画面をタップし、メモアプリをく。
夜零を告げる子音が、静かな内にさく響いた。
「付が変わりましたね、坂さん」
港がハッと息を呑み、私を見つめる。
私はスマートフォンの画面を消し、え切った声で、彼に告げた。
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「……あと、62です」
港の顔から、完全に表が抜け落ちた。 すがるように伸ばしかけた彼のが、宙で力なく凍りつく。
タクシーの窓の、方をる台の黄いタクシーの内に、涙で顔を濡らした美優の青い横顔が瞬だけ灯に照らされ、そしてのへと消えていった。
カレンダーの数字が『あと40』を指した頃、坂の活秩序は完全に崩壊していた。
このヶあまりのに、派遣されてきた政婦は交代していた。 理由はすべて義母の子だった。 しでも掃除をかける音が気にわなければ鳴り散らし、減塩のを「私に嫌がらせをしている」と詰問し、果てには「棒猫」呼ばわりして追いす。 しくやってきた代目の政婦も、昨、涙目で荷物をまとめてっていった。
その皺寄せは、すべて港に向かっていた。
「おい、港! 洗濯物が溜まってるじゃないの! 私の肌着はどこにあるのよ!」 「母さん、頼むから朝から喚かないでくれ……。今はこれから、都所との設計審査会議なんだ」 「喚くって何よ! 息子がだらしがないからでしょう! 体、あそこにいる居候がしでもをかせば――」 「彩佳に言うなと何度も言っただろうが!」
リビングから聞こえてくる罵声の応酬を、私は階の客で静かに聞き流していた。
客のだけは、の修羅とは完全に隔絶された別世界だった。
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ベッドメイキングは毎朝自分でい、埃つない。 デスクのには、川さんの設計事務所から預かったシニア向けバリアフリー宅の図面が広げられていた。 父の形見である製図用のシャープペンシルをらせ、廊の幅やすりのさをミリ単位で調していく。
昨、川さんから話があった。 提したポートフォリオの改修プランが、クライアントに変好評だったという。
『彩佳ちゃん、本当にブランクがあるの? 子の回転半径だけじゃなくて、介護者が横につスペースまで見越して寸法を取ってある。現をっているの図面よ。契約が終わったら、すぐにうちに来てちょうだい』
その言葉をいすたび、胸の奥に確かな体温が灯る。 私は、誰かに養ってもらわなければきていけない無力ななどではなかった。 ただ、坂という狭い牢獄ので、その力を奪われ、自信を削り取られていただけなのだ。
私は図面を丁寧に丸めてケースにしまうと、カレンダーの付に黒いペンで斜線を引いた。
『あと39』。
ゴールは、もう指呼のに迫っていた。
◇
そのの夕方、私は階のキッチンで自分のむハーブティーを淹れていた。 そこへ、しようとしていた子が、物凄い形相で音を荒てて入ってきた。
「ちょっと、彩佳」
子は派なの着にを包み、ぶりの指輪をらせながら私のにちはだかった。