"父の葬儀で離婚を迫った夫" 第9話
「まあ……! 彩佳さんじゃありませんか!」
容子はりに私へ歩み寄ると、躊躇うことなく私の両を包み込むように握りしめた。 港が目を黒させて固まる。
「ご無汰しております、植様。昨のお茶会以来でございますね。お変わりなくお元気そうでいたしました」
私が丁寧にをげると、容子は嬉しそうに私の顔を覗き込んだ。
「本当にお久しぶりね。あなたからいただいたきのお、今でも斎に切に飾ってあるのよ。私が腰を痛めた、わざわざ体に負担のかからない座布団のを調べて送ってくださったでしょう? あのは本当に救われたわ」
「とんでもございません。父が、仕事でよく腰を痛めておりましたので、しでもお役にてればとっただけでございます」
容子は私の質素ながら凛とした装いを温かい目で見つめ、夫の植専務に向き直った。
「あなた、ご覧になって。彩佳さんのこのち振るい。最の派なばかりの奥方様方とはまるで違う、本物の品格がおありでしょう? 私がに申しげた通りですわ」
植専務もまた、く頷いて相好を崩した。
「ええ、本当ですね。坂社、奥様の内助の功にはががらんでしょう。半、展示の設計見直し案をいただいたも、主婦目線の線や採に関する素らしい補資料が添付されていましたが……あれも奥様のお恵だとか?」
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港の顔が、驚愕と狼狽で引き攣った。
「え……あ、は、はい! もちろん、内の見も参考にしつつ、私が……」
港は喉を詰まらせながら、必に取り繕った。 だが、そのにいたの役員夫たちも、次々と私に声をかけてきた。
「彩佳さん、あの教えていただいた伝統芸の呂敷、の取引先に変ばれましたのよ」 「うちの主が倒れたも、坂社を通じてすぐに素らしいお見いの品を選んでくださって……坂建設さんがどんなに急成されても、私たちがしてお付きいできるのは、彩佳さんがろにいてくださるからよ」
次々とかされる事実に、港は完全に言葉を失っていた。
彼にとって、私がで配していたやお見いの品、展示の図面へのアドバイスは、すべて「妻ならやって当たりの雑用」に過ぎなかった。 私がどれだけのを費やし、相の族構成や体調、好みを調べげ、坂建設という荒削りな企業に『誠実な信用』というコーティングを施してきたか。 彼は今の今まで、何つらなかったのだ。
「坂社」
植専務が、ワイングラスを傾けながら、鋭くも穏やかな線を港に向けた。
「都発というのはね、コンクリートを積みげることじゃない。そこにまう々の活を預かる事業です。だからこそ、々がパートナーに求めるのは、企業の規模や勢いではなく、誠実さと庭の基盤の定なのです。
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……奥様を拝見していれば、貴社が信頼にる企業であることは疑いようがありませんよ」
「は、はは……! もったいないお言葉です。に余る栄でございます!」
港は必にをげた。 だが、その額にはや汗がびっしりと浮きていた。 彼が必に隠そうとしていた『女の妻』こそが、彼が喉からがるほど欲していた数億円の案件の、唯無の信用保証だったのだ。
乾杯の図とともに、歓談が始まった。 私は専務夫妻のグラスの空き具にさりげなく気を配り、料理の産にまつわる話題でをませた。 港は隣でぎこちなく笑いながら、折、信じられないものを見るような目で私を盗み見ていた。
だが、私のはどこまでも静まり返っていた。
彼らが褒め称えている『坂港の妻』は、もうどこにもいない。 私はただ、契約に定められた仕事を淡々とこなしているに過ぎないのだから。
盤を過ぎた頃、私は「し失礼いたします」と断りを入れ、化粧へと席をった。 たいでを洗い、鏡のの自分を見つめる。 頬はし潮していたが、瞳は澄んでいた。 これであとヶとし、この仮面を被り続ければ、すべては終わる。
パウダールームをて、静かな廊を歩いていただった。