"父の葬儀で離婚を迫った夫" 第7話
「私の義務に、お茶汲みや朝の用は含まれていません。港さんから聞いていませんか? 私は事切をわない条件で、ここに同居しています」
「あんた、誰に向かってを利いてるの!? このに置いてもらっている分で――」
「母さん、やめろ!」
港が割って入った。 顔を蒼にし、私の様子を恐る恐る窺いながら、母親の肩を引に押さえつける。
「彩佳に事をさせるなと、昨俺が言っただろう! 契約を反故にされたらどうするんだ!」
「でも港! 嫁のくせに何もしないで居座るなんて、世体が――」
「世体を気にするなら、政婦に文句を言わずにしく待っていてください」
私は淡に言い放ち、元のミネラルウォーターのキャップを捻った。
「失礼します」
の声と戸惑いを背に残し、私はもをつけていないグラスを持って、自分の客へと引き返した。
階段をる途、背で子が「なによあの子、気になって!」と叫び、港が「頼むから余計な刺激をするな!」と鳴り返す声が聞こえた。
の結婚活で、港が母親を鳴りつけたことなど度もなかった。 彼にとって子の嫌は常に最優先であり、理尽に責めてられるのは常に私だった。 それが今や、彼ら自が作った歪な力関係ので、自ら首を絞めっている。
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部に戻り、カレンダーの数字を見つめる。 昨記した『あと89』の文字。 その隣に、黒いペンで静かに斜線を引いた。
『あと88』。
何もしないこと。 ただそれだけで、彼らがこれまで私の無償の労働のに胡座をかいていた事実が、のに晒されていく。 胸の奥で、氷のようにたく、どこか乾いた満が広がっていくのをじていた。
◇
客のデスクのには、父の遺品であるさなスケッチブックと、私が独代に取得した『級建築士』の免許証が置かれていた。
代半ば、私はさな設計事務所で宅のリノベーション図面を引いていた。 古い建物の骨組みを活かし、そこにむ族の線や採を考え抜く作業が好きだった。 父もまた、私が持ち帰る図面を見ては「おは現のをよく分かっている」と、あの節くれだったでを撫でてくれたものだった。
だが、港と結婚した、彼の言葉によって私のキャリアは断たれた。
『坂建設の社夫になるんだ。みっともない真似はするな。おの役目は、俺を支えて坂のを継ぐ子供を産むことだ』
妻の座に就くことが幸せなのだと、自分に言い聞かせてきた。 だが結果はどうだったか。 子供ができないという烙印を押され、父の葬儀で踏みにじられ、あげくの果てにのを目のに連れてこられた。
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私は引きしからスマートフォンを取りし、画面に表示された話番号を見つめた。 結婚にお世話になっていた設計事務所の先輩、川さんの連絡先だ。 呼吸をつして、通話ボタンを押す。
回ほどのコールの、懐かしいハスキーな声がに届いた。
『はい、アトリエ・ハセガワです』
「……川さん。条です。いえ、彩佳です。ご無汰しております」
受話器の向こうで息を呑む気配がした。
『彩佳ちゃん!? 本当に彩佳ちゃんなの? どうしたの、急に……もう何も連絡がなかったから、驚いたわ』
「突然のお話、申し訳ありません。実は……川さんにご相談したいことがありまして」
私は窓のの青空を見つめながら、言葉を選んで続けた。
「ヶ、私は婚します」
川さんは驚きの声をげなかった。 ただ、静かに私の呼吸を待ってくれた。
「つで再スタートを切ることになります。……もし、事務所に空きがあるなら、どんな雑用でも構いません。図面のトレースでも、申請類の作成でも。もう度、建築の現で働かせていただけないでしょうか」
沈黙が数秒続いた。 胸が鐘を打つ。のブランクがある代半ばの女を、いまさら雇う余裕などないかもしれない。
だが、返ってきたのは、拍子抜けするほど温かい声だった。
『彩佳ちゃん。あなた、正雄さんの娘さんでしょう。
現の厳しさも図面のみも、骨の髄までってる子を、私が断るわけないじゃない』
「川さん……」