"父の葬儀で離婚を迫った夫" 第5話
「このおは持って帰って。私は施しを受けるために戻るんじゃない。奪われたものを取り戻すために戻るのよ」
港は封筒を抱きしめたまま、逃げるようにアパートからちっていった。 夜の静けさが戻った部で、私はく息を吸い込んだ。
戦いが、ここから始まるのだ。
◇
翌朝、午分。 アパートのに黒い級セダンがまり、ドアがいた。
現れたのは、港に腕を引かれた義母の子だった。 昨までの派な装飾品はし、な紺のスーツを着ているが、その顔はりと屈辱で真っ赤に染まり、今にも爆発しそうだった。
「港! どうして私がこんなアパートの汚い部に――」
「母さん、静かにしろ! 契約を潰す気か!」
港がく凄惨な声ですると、子は言葉を詰まらせた。 息子のただならぬ気迫に、自分のを理解せざるを得なかったのだろう。
私がドアをけると、は無言でにがった。 港は持参した豪奢な百の束を私に渡そうとしたが、私は受け取らなかった。
「直接、父のに供えてください」
港はい表で束を祭壇に置き、線にをつけた。 そして、ろにち尽くしていた子の肩を乱暴に掴み、祭壇のへと引き倒すようにたせた。
「母さん。く」
子は唇を激しく震わせ、祭壇のの正雄の遺を睨みつけた。
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遺のの父は、何事もなかったかのように穏やかに微笑んでいる。
「……申し訳、ありませんでした」
子のから、絞りすような微かな声が漏れた。
「聞こえません」
私が背からたく告げると、子はりで肩をねがらせ、振り返って私を睨みつけた。
「あんたねえ! の義母に向かってその態度は――」
「母さん!!」
港が鳴りつけた。 額に青筋をて、目を血らせた息子に鳴られ、子は怯えたように息を呑んだ。 そして、奥歯をギリギリと噛み締めながら、正雄の遺に向かって、度の角度で々とをげた。
「……葬儀のにおいて、失礼な振るいをいたしました。より、お詫び申しげます」
屈辱に耐えかねた子の指先が、スカートのを破れんばかりに握りしめられている。 私を見し、父を侮辱し、のに私を突き落としたあの女が、今、父のにを垂れている。
胸の奥の澱みが、わずかにれていくのをじた。 だが、これはほんの始めに過ぎない。
「結構です。顔をげてください」
私が告げると、子は吐き気を催したかのように顔を背け、に玄関へと向かった。 港が私を振り返る。
「これで満か?」
「第の条件はクリアね。荷物をまとめるから、で待っていて」
私は必最限の着替えと、父の遺品であるさなスケッチブック、そして建築士の資格証をトランクに詰め込んだ。
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かつて坂で購入してもらった価なやバッグは、何つ持たない。 すべて、私自のものだけでトランクを閉じた。
に乗り込むと、助席の子は窓のを向いたまま言も発しなかった。 バックミラー越しに目がった港は、どこか怯えたような、奇妙な線を私に向けていた。
分、私はかつて暮らしていた坂のをくぐった。 閑静な宅に建つ、階建ての豪邸。 だが、玄関をけた瞬にをついたのは、饐えたような活臭だった。
リビングには脱ぎ捨てられたが散乱し、キッチンには使用済みの器が積みがっていた。 私がを空けていたわずか週のに、このの秩序は完全に崩壊していた。
「……政婦は、今の午から来るはずになっている」
港が言い訳のように呟いた。 私は散らかった部を瞥し、何のもかさずに言った。
「私の部はどこ?」
「階の、番奥の客を使ってくれ。ベッドはしく配した」
「分かったわ」
私は自分のトランクを引き、埃の積もった廊を通って階へとがった。 客に入り、ドアに内側から鍵をかける。
カチリ、とい属音が部に響いた。
畳ほどの簡素な客。 私はデスクのに、持参した卓カレンダーを置いた。 そして、胸のポケットから赤の油性ペンを取りすと、今の付の隣に、きく数字をき込んだ。