"父の葬儀で離婚を迫った夫" 第3話
彼だけだった。
「何の用ですか。類は弁護士を通じて届いているはずですが」
私のたい声に、港は喉を鳴らして線を彷徨わせた。
「けてくれ。事な話があるんだ」
「話すことなどありません。用件なら私の代理に――」
「頼むから! 頼む、彩佳!」
港がドアにをかけ、必の形相で叫んだ。 隣の部のが審そうにドアをける気配がしたため、私は舌打ちをみ込み、チェーンをしてドアをけた。
「玄関先で済ませてください。靴は脱がないで」
にった港は、狭い畳の奥にある父の簡素な祭壇を瞥し、バツの悪そうに線を逸らした。 そして、ポケットから分い封筒を取りし、駄箱のに置いた。
「これを受け取ってくれ。切れとして、君の弁護士が求してきた額の倍だ。今すぐキャッシュで渡せる」
私は封筒には目もくれず、彼をまっすぐに見据えた。
「何が目なの?」
港は唇を噛み、逡巡するように沈黙した。 だが、私がドアノブにをかけ、追いそうとする仕を見せると、彼は慌てて両をげた。
「婚届だ。提するのを……し待ってほしい」
「……は?」
「婚の続きを、今すぐ止めてくれ。ヶだ。ヶだけでいい。今まで通り、坂港の妻として籍を置いたままにしてほしい」
私は乾いた笑いを漏らしそうになった。
広告
「聞き違いかしら。、あなたは私の父の遺体ので何と言った? 『おはの汚点だ』『度と坂を名乗るな』そう言って警備員に放りさせたのは誰だった?」
「それは……あのは母さんも美優も興奮していて、俺もに血がっていたんだ!」
「に血がっていた?」
私は歩、港へと踏みした。 彼が気圧されたように半歩ずさる。
「に子供を作らせて、臨の女を私の目のに連れてきたのは、衝なだったとでも言うつもり? ふざけないで。私はもう、あなたの妻じゃない」
「違うんだ! 彩佳、聞いてくれ!」
港は髪を乱暴に掻きむしり、すがるような目で私を見た。
「ヶに、すべてが終わる。それまではどうしても、君が妻でいてくれないと困るんだ。そのなら、君の望む条件で婚に応じる。慰謝料も、会社の株の部も渡したっていい。だから――」
「なぜ?」
私は彼の言葉を遮った。
「なぜ、私なの? お腹に坂の跡継ぎがいるんでしょう。あの女性と今すぐ再婚して、しい庭を築けばいいじゃない。その方がお義母さんもぶわ」
港はを噤んだ。 脂汗が彼の額から滲みて、眉を伝っていく。 言えない理由があるのだ。 それも、彼の命運をするほどの致命な理由が。
私は腕を組み、徹に観察した。 坂建設の社業。 最、港が夜遅くまで話で議論していた案件。
広告
庭のことなど顧みず、連のように接待を繰り返していた相。
つのピースが、ので噛みった。
「……座の、再発プロジェクトね」
港の肩が、ピクリとねがった。
図だった。
坂建設は堅のゼネコンに過ぎない。 だが半から、財閥系デベロッパー主導による、総事業費数百億円規模の『座複都更プロジェクト』の共同施枠に名乗りをげていた。 この枠を勝ち取れるかどうかで、坂建設が流企業の仲入りを果たすか、のまま淘汰されるかが決まる。 港が社運を賭けていたプロジェクトだ。
「資元の審査が、いよいよ詰めに入ったのね」
私は淡々と推論を紡いだ。
「主幹事の都所は、創業百の極めて保守な企業よ。役員の素や庭環境、企業の倫理観に対するコンプライアンス審査が異常なほど厳しいことで名だわ。……そんな期に、社が妻の父親の葬儀でを連れ込み、臨のに子供を産ませて沼の婚騒を起こしているなんて噂が漏れたら、どうなるかしら」
港の顔から、完全に血の気が引いていた。
「審査どころじゃないわね。即座にコンソーシアムから除名される。坂建設は業界の笑い者になり、からの融資も引き揚げられる。……違っていて?」
港は力なく線を落とし、さく震える声で呟いた。
「……来週、都所の専務夫妻を招いた、非公式の懇親ディナーがある」
「……」
「専務の奥様は、族の絆を何よりもんじる敬虔な方だ。