"父の葬儀で離婚を迫った夫" 第2話
『先輩』という呼び名に、悪と優越がたっぷりと滲んでいた。
「港さん……やめて。お願いだから、父の最の顔を見させて。棺が終わるまで、待って……」
私は崩れ落ちそうになる膝を必で支え、夫に懇願した。 プライドなどどうでもよかった。 ただ、父をで逝かせたくなかった。
だが、港は無造作に線を巡らせ、式の入に控えていた斎の警備員に顎をしゃくった。
「邪魔だ。そいつをつまみせ」
「港さん!?」
「おのそのものが、俺のの汚点なんだよ。度と坂を名乗るな」
黒い制の男たちががかりで私の両腕を掴んだ。 抵抗しようとしたが、力任せに引きずられる。 父の棺がざかっていく。 ガラス戸の向こうで、港と美優、そして子が親戚たちに瞥もくれず、平然と関係者控へと歩いていくのが見えた。
私はのアスファルトのに、文字通り放りされた。
たいが喪に染み込み、膝とのひらに鋭い痛みがる。 いガラス扉が、背で非な音をてて閉ざされた。
父の顔を、もう度と見ることはできなかった。
りしきるの、私はに突っ伏したまま、声にならぬ叫びを喉の奥で押し殺した。 涙がと混ざりって流れていく。 通り過ぎるがねげる沫を浴びながら、私の世界は完全に崩壊した。
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だが、極限の寒さので、ふと幼い頃の記憶が蘇った。 現でだらけになって帰ってきた父が、転んで泣いていた私のを、あのきなで包み込んでくれたのことだ。
『彩佳。どんなことがあっても、おはおの価値を忘れるな』
く、温かい声。 その言葉が、凍りついた私のの奥底で、さな種のように微かに灯った。
私はゆっくりと顔をげた。 に打たれ、にまみれた顔をの甲で拭う。
もう、涙はなかった。 のに広がっていた絶望は、いつのにか、黒く徹な決へと変していた。
――あいつらに、私のを踏みにじらせたまま終わらせてたまるものか。
◇
葬儀の翌朝、私は父が遺した築を超える造アパートにいた。
畳には父の吸っていたタバコと湿ったの匂いが染みついていた。 畳の片隅に、昨着ていただらけの喪が脱ぎ捨ててある。
私はシャワーを浴びて髪を乾かすと、すぐにスマートフォンの画面を操作した。 躊躇は秒もなかった。 以、から聞いていた婚問題にい弁護士事務所に話をかけ、面談の予約を入れた。
「財産分与や慰謝料の請求はどうされますか」
午、相談に乗ってくれた若い女性弁護士が、私の憔悴した顔を見て気遣わしげに尋ねてきた。
「法に請求できるものはすべて請求してください。
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ただ、条件があります。相方が争ってくるようなら、条件をげても構いません。私の目はつだけです。刻もく、あの男と法な縁を切ることです」
「分かりました。至急、受任通と協議婚の申入を作成して坂氏の会社へ送付します」
事務所をると、空はく濁っていた。 ぶらでアパートへ戻るすがら、私はスーパーでパンを袋だけ買った。 父のいない畳は酷く静かで、計の秒針の音だけが規則正しく響いていた。
これでいい。 の悪のような活が、ようやく終わるのだ。 子供ができないというだけで扱いされなかった々。 港の嫌を損ねないよう、毎顔を窺い、義母からの理尽な求に応え続けてきた々。 すべてを清算し、できていこう。 父の古い遺品をしずつ理しながら、私はそうに決めていた。
だが。
葬儀からちょうど目の夕暮れ、その静寂は唐突に破られた。
ドンドン、とアパートのい鉄のドアが荒々しく叩かれた。
「彩佳! いるんだろ、けろ!」
聞き違えるはずのない声だった。 港だ。
私はチェーンをかけたまま、ドアをセンチだけけた。 隙から見えた夫の姿に、私は瞬、言葉を失った。
仕ての良いスーツはあちこちに皺が寄り、ネクタイは曲がっている。
目のには濃い隈が刻まれ、のような傲な威圧は見るもなかった。 彼の背には、義母の姿も、のの姿もない。