"父の葬儀で離婚を迫った夫" 第1話
たいのる朝だった。
線の匂いとい菊のりが、湿った空気のでく澱んでいる。 祭壇の央で微笑む父、条正雄の遺を見げながら、私は黒い喪の膝ので拳を握りしめていた。
以、建設現のを渡り歩いてきただった。 節くれだって、コンクリートとタバコの匂いが染みついたきな。 をした私の額にそっと触れてくれたときの、あののよいみは、もうどこにもない。 全による突然のだった。
「これより、最のお別れの儀へと移らせていただきます」
葬儀社の係員がく告げ、父の棺の蓋がけられようとした、まさにそのだった。
カツ、カツ、カツ。
静まり返った斎に、違いにいヒールの音が無慮に響き渡った。 参列していた親戚たちが斉に顔をげ、入に線を向ける。
っていたのは、義母の坂子だった。
黒の喪ではあるものの、襟元には粒のパールのネックレスが揺れ、派な毛皮のショールを羽織っている。 しみのなど微もない、淡で見すような線が私を射抜いた。
「お義母さん……どうして……」
ちがりかけた私に、子は迷いなく歩み寄ってきた。 そして、参列者の誰もが息を呑むで、にした茶封筒を私の顔面めがけて投げつけた。
バサリ、と鈍い音がして、の束が私の頬をかすめ、に散らばる。
広告
枚の用が、私の元に裏返って落ちた。 見慣れない役所の印字。 『婚届』の文字が、界にび込んできた。
「さっさと名をいて判を押しなさい。あんたみたいな疫病神、坂には秒たりとも置いておけないのよ」
子の甲い声が、静かな式に容赦なく突き刺さる。
「父の……葬儀の最です。なぜ、今そんなものを」
「今だからよ」
子は嘲笑うように端を歪めた。
「父親がくたばって、あんたの唯の取り柄だった『真面目な庭』の化けの皮も剥がれたじゃない。雇いがりのにどれだけ借があるかれたもんじゃないわ。うちの港にそのツケを払わせる気? 図々しいにも程があるわ」
「父に借などありません! をにして働いて、私を育ててくれたです!」
私が声を荒らげると、背の自ドアが再びいた。
「母さん。みっともないから声をすな」
聞き慣れた声だった。 夫の坂港。 結婚して、毎朝ネクタイを締め、スーツの肩の埃を払って送りしてきた私の夫。
だが、港はではなかった。
彼の隣には、港の腕にしっかりと自分の両を絡ませた若い女性がっていた。 坂建設の経理部に所属する部、桜井美優。
彼女がにまとっているのは、ゆったりとしたラベンダーのマタニティワンピースだった。
広告
隠しようもなくせりしたその腹部は、どう見ても妊娠ヶを超えている。
のの血液が、すっと引いていく音がした。
「港……さん? そのは……」
港は私の問いに眉つかさず、の消え失せたえ切った目で私を見ろした。
「紹介する。俺の子供をごもっている美優だ。もうすぐ男の子がまれる」
「子供……?」
「そうだ。坂には跡継ぎが必なんだよ。君のような女を、これ以妻の座に置いておく義理はない」
女。 その残酷な文字が、脳の奥くまで撃ち込まれた。
の結婚活。 毎訪れる絶望な痛みにで耐え、義母からの「まだなの」「く産みなさい」という執拗な嫌がらせにをげ続け、港の激しい嫌の浮き沈みをすべて受け止めてきた。 私で産婦科に通い、検査結果に異常がないとっても、港がクリニックへを運ぶことは度もなかった。
『俺の体に問題があるわけがないだろう。おが神経質すぎるんだ』
そう吐き捨てていた夫が、で若い部と体をね、子供を作っていた。 よりによって、私の父がたくなったこのに、それを見せつけに来た。
美優が歩にて、らしい顔に勝ち誇った笑みを浮かべた。
「先輩、いい加減に空気読んでを引いてくださいよ。港さん、子供ができない先輩を養うために、これまでどれだけしてきたとってます? しでも良があるなら、さっさとサインしてていくのが筋じゃないですか」