"二年間買い続けた夫の浮気相手" 第16話
と傲に浸っていた。
とも、同じ男の掌ので、踊らされていただけだったのだ。
腹部の術痕に、そっとを当てた。 先ほどまで疼いていたが、潮が引くようにすっと消えていくのが分かった。
痛くない。 もう、あの傷は痛まない。
私はく息を吸い込み、え切ったコーヒーをんだ。 苦だけが、舌のに鮮やかに広がった。
「泣くのはやめなさい」
私の静かな声に、美穂がおずおずと顔をげた。 腫れがった目が、赤く充血している。
「言っておくけれど、これであなたの罪が消えたわけじゃないわよ」
美穂は唇を噛み締め、さく頷いた。
「ええ……分かっています」
「あなたが健さんの嘘を信じたとしても、既婚者だとっていながら関係を持った事実に変わりはない。私の病気をっていながら、嘲笑うような態度を取ったことも、消えはしないわ。私はあなたを許さないし、友達になる気もない」
「はい……当然です」
「でも」
私はテーブルのに線を落とした。
「あの男のい通りになるのは、虫唾がるわね」
美穂が、息を呑んで私を見つめた。 その瞳に、微かなが宿りかけた、そのだった。
美穂のバッグので、スマートフォンがけたたましい子音を鳴らし始めた。
静かな内に、無質な着信音が響き渡る。 美穂は慌ててバッグにを突っ込み、端末を取りした。
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画面を見た瞬、彼女の顔から、再びすべての血の気が引いた。
「……保育園の、園先からだ」
美穂の指が震え、通話ボタンを押すのに取った。
「あ、もしもし! 田です、すみません、どうされまし……え?」
話の向こうから、切迫した女性の声が漏れ聞こえてきた。 美穂の表が、見る見るうちに絶望へと塗り替えられていく。
「嘘……そんな……! 健さんが!? 勝に連れてったんですか!?」
美穂がちがった。 その勢いで子がガタリと音をてて退する。
「私、今朝『絶対に父親には引き渡さないでください』ってお伝えしましたよね!? 調だって……! え? 『母親が精神疾患で育児放棄しているから、父親が保護する』って類を持ってきた……? そんなの、全部嘘です! 全部あのの捏造です!」
美穂の叫び声に、内の数ない客たちが斉にこちらを振り返った。 老仕が困惑した表でづいてこようとする。
美穂は話を握りしめたまま、そのに崩れ落ちるように膝をついた。
「翔太……翔太をどこへ連れてったんですか……! お父さんの実……? そんな……あそこは……」
通話が方に切られたのか、美穂のからスマートフォンが滑り落ち、絨毯のに鈍い音をてて転がった。
画面には、直に届いたとわれるメッセージの通が表示されていた。 送信者は『健』。
ポップアップに表示されたい文面が、私の目にもはっきりとび込んできた。
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『翔太は俺が引き取った。おのような異常者に育てる資格はない。親権を放棄する類にサインしろ。さもないと、おの過の男関係も全部裁判所に提して、円のも残らないようにしてやるからな』
美穂はに両を突き、過呼吸のように浅く激しい息を繰り返していた。
「翔太……取られた……あの子、まだ歳なのに……暗いところが怖くて、じゃ寝られないのに……」
美穂の痩せた背が、痙攣するように震えている。 彼女はので顔をげ、すがるように、私の元を見げた。
その瞳の奥にあったのは、かつての敵でも、罪悪でもなかった。 ただ、すべてを奪われ、子供を質に取られた、の母親の剥きしの絶望だった。
「子さん……」
美穂の掠れた声が、私の元に届いた。
「助けて……翔太を……あの子を、あの男から助けてください……!」
喫茶の暗い空に、計の針の音だけが、無慈に響き続けていた。 私はち尽くしたまま、元で崩れ落ちる美穂の姿を見ろしていた。
喫茶のに崩れ落ちた美穂の背は、寒さに震える捨て犬のようにさかった。
「助けて……翔太を……あの子を、あの男から助けてください……!」
フロアに響き渡った痛な叫び声に、れた席にいた客が眉をひそめ、老仕がおろおろと線を泳がせている。 に散らばったバッグから、帳やリップクリーム、そして古びた母子帳が無惨に転がりていた。