"二年間買い続けた夫の浮気相手" 第14話
結婚してみたら遣いが荒くて、事もしないでヒステリーばかり起こすから、耐えられなくなって別居したって。自分はあの頃仕事で疲れていて、あなたの甘い罠に惑わされただけの被害者だったって言ってたわよ」
美穂の喉から、ヒッとい鳴のような息が漏れた。 彼女は両で元を覆い、そのままテーブルに崩れ落ちそうになった。
「それからね」
私は容赦なく続けた。
「病気になった私を支えられなかったことを、今でもずっと悔してるんですって。本当は私とやり直したい、調が終わったらまた会いたいって、れっぽい声で縋りついてきたわ」
「嘘ばっかり……」
美穂の指の隙から、涙が溢れしていた。 声が激しく震えている。
「全部、嘘……! あんなに、私を追い詰めておいて……! 活費だってに万円しか入れてくれなくて、翔太のオムツ代すら『おの無駄遣いだ』って鳴って……! 自分は毎晩み歩いて、しいまで買って……!」
美穂は顔をげ、涙でぐしゃぐしゃになった顔で私に訴えかけた。
「私、奪った側ですよ? 子さんから健さんを奪って、勝利者になったはずだったんですよ? なのに、籍を入れた翌から、あのは私のことを『何もできない穀潰し』扱いし始めたんです! 『のみほはもっと従順だった』『子は文句も言わずにを守ってたぞ』って、何かあるたびにあなたの名をして私を殴って……!」
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「美穂さん」
私は静かに、けれどい調で彼女の叫びを遮った。
「私が聞きたいのは、今の愚痴じゃないの。の話よ」
美穂が息を詰まらせた。
「あなたが健さんと付きい始めた……あの男は、あなたに何て言っていたの?」
喫茶の奥で、古い柱計の振り子がコチコチと音をてていた。 美穂は震えるで目元の涙を拭い、呼吸をえようと何度も呼吸を繰り返した。
「……最初は」
美穂の声は、々しかった。
「会社のみ会の帰りでした。健さんにで送ってもらったに、泣かれたんです」
「泣かれた?」
「ええ。『妻とはもう何もから完全にえ切っている』って。『庭内別居状態で、には寝に帰るだけのたいコンクリートの箱だ』って言われました」
私はので、笑を浮かべた。 え切っていた? 庭内別居? あの頃の私は、痛む腹部を抱えながら、毎彼の帰りを待ち、体に良い材を選んで夕を作り、彼が脱ぎ散らかしたスーツをクリーニングにしていた。 え切っていたのではない。彼が方に私を無し、界から排除していただけだったのだ。
「健さんは言いました。『妻は子供のことしかにない。俺のことは具としかっていないんだ』って。『妊治療のプレッシャーを全部俺にぶつけてきて、のが息苦しくてたまらない』って……」
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美穂は苦しそうに喉を鳴らした。
「私、その言葉を信じちゃったんです。代半ばの馬鹿な娘でしたから……派な会社の社さんが、私だけに音を吐いてくれたって、特別扱いされた気になっていがってしまったんです。『私がこのを救ってあげなきゃ』『私なら、このを幸せにしてあげられる』って……」
「愚かだったわね」
私が徹に切り捨てると、美穂は「はい」とさく頷いた。
「本当に、救いようのない馬鹿でした。でも、番決定打だったのは……子さんの病気が分かったのことです」
私の背筋が、ピンと張り詰めた。
「癌の術が決まった、健さんは私に言ったんです。『もう婚のは取れている』って」
「……何?」
「『子も婚には同している。ただ、今このタイミングで婚届をすと、世体が悪いし、癌の術を控えている妻を捨てる酷な夫だとわれるから、術が終わって体調が落ち着くまでは籍だけ残しておくことになったんだ』って」
私のので、血が逆流するような音がした。
「あの男が、そう言ったの?」
「はい。だから……」
美穂は恐怖に怯えるように、私の顔を伺った。
「だから私、あの箱根の旅も、浮かれきって付いていったんです。『術が無事に終われば、れて私たちが堂々と緒になれるんだ』って……健さんがそう言うから、病気のあなたに罪悪をじるどころか、『く婚届をしてくれればいいのに』って、病院のベッドにいるあなたのことを邪魔者みたいにっていたんです……!」