"二年間買い続けた夫の浮気相手" 第7話
そこには、乱暴な跡で『極度の貧血、正血、過労』と記されていた。
が差したことに気づいた美穂が、にを突いたまま、恐る恐る顔をげた。 見げる彼女の瞳に、私の姿が映っている。
「……って」
私はを押し殺した、い声で言った。
「え……」
「目ってるわよ。てるなら、くちなさい」
美穂は唇を噛み締め、震えるで私の差ししたを――掴もうとはせず、自力で壁にすがりつきながらちがった。 その体は、驚くほど軽そうに見えた。 呼吸が荒く、額には脂汗が滲んでいる。
私は彼女の首を、躊躇することなく掴んだ。
骨の触がそのまま伝わってくるほど、細い首だった。 美穂がさく息を呑む。
「な、何ですか……放してください……」
「いいから来なさい」
私は彼女を引っ張るようにして、混みう待廊を抜けた。 護師が審そうにこちらを見たが、私は「しの空気を吸わせてきます」とく告げ、病棟の渡り廊の先にある、庭に面した避難用のテラスへと美穂を連れした。
い鉄の扉をけると、晩のたいが、の頬を容赦なく叩いた。
コンクリートのテラスには誰もいなかった。 の曇り空の、都の層ビル群がくに霞んでいる。 が吹き抜けるたびに、美穂の着ているいカーディガンがパタパタと音をてた。
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私は彼女の首をした。 美穂はよろめきながらテラスのすりに背を預け、怯えた野良犬のような目で私を見つめた。
「……何の真似ですか」
掠れた声だった。
「私を笑いに来たんですか? こんなところで、惨めな姿を晒している私を見て、胸がすきましたか?」
その言いに、私のでたいりがふつふつと湧きがってきた。 どこまでも、自分を劇のヒロインに仕てげなければ気が済まない女なのだ。
「自惚れないで」
私は淡に言い放った。
「あなたが病気だろうが倒れようが、私には何の関係もないわ。私が聞きたいのは、そんなことじゃない」
私は歩、彼女にづいた。 美穂がを縮める。
「どうして、私ので買い物を続けたの?」
の音だけが、のに響いた。 美穂は唇をきつく結び、線を元のコンクリートに落とした。
「……に、きました。もう度と現れないって」
「のことなんて聞いてないわよ!」
わず声が荒くなった。 自分でも驚くほど、激しいが喉を突き破ってた。
「よ。毎毎、私の作ったものを買って、『閉じないでください』なんてメッセージを残して……! 私のに現れて、勝にを置いて逃げして、それで終わり? 冗談じゃないわ。私がどんないであのをきてきたか、あなたに分かるの?」
美穂の肩が、びくりとねた。
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「私のをめちゃくちゃにして、夫を奪って、病気で子宮を失った私を嘲笑っていた女が、から施しを与えるような真似をして……! 何のつもり? 良の呵責? それとも、健さんとを取りって、元妻の惨めな再発をから眺めて楽しんでいたの?」
私の激しい言葉の連打を、美穂はを垂れたまま、ただ黙って受け止めていた。 言い返すことも、否定することもしない。 ただ、その痩せた指先が、カーディガンの裾をちぎれんばかりに握りしめている。
い沈黙が流れた。 くで、救急のサイレンが微かに聞こえていた。
やがて、美穂がゆっくりと顔をげた。 その瞳には、涙の滴も浮かんでいなかった。 代わりに宿っていたのは、濁った、けれど痛々しいほど剥きしのだった。
「……良なんて、あるわけないでしょう」
乾いた、い声だった。
「え?」
「良なんて綺麗なもの、私のに残ってるわけないじゃないですか」
美穂は自嘲するように元を歪めた。 その歪んだ笑みは、醜悪で、けれど紛れもない彼女の本音だった。
「番最初、あなたのアカウントを見つけたのは、健さんのスマホからでした」
が、美穂の乱れた髪を乱暴に揺らす。
「婚してすぐの頃です。健さんが、お酒をみながら馬鹿にしたように笑ってたんです。『あいつ、アパートで内職みたいなネットショップ始めたらしいぞ』って。
過ぎて子宮もなくなって、俺に捨てられた女が、今さらできていけるわけがない、すぐに泣きついてくるに決まってるって、そう言ってあなたのショップのURLを画面で見せてきたんです」