"二年間買い続けた夫の浮気相手" 第6話
雑誌をめくる、祈るように両を膝のでねている、スマートフォンの画面を虚ろに見つめる。 誰もが、自分の体の奥底に潜んでいるかもしれない『目に見えない』に怯えている。
私もまた、そのだった。
受付に診察券を通し、採血で本のスピッツに血を抜かれ、の放射線科で造CTを撮り終えた、私は階の待廊の子に腰をろしていた。 胸ポケットので、プラスチックの呼びし受信がたく沈んでいる。
腹部に、無識のうちにが伸びた。 のニットのから、術痕の触を確かめる。 癌は取り切れたはずだ。リンパ節への転移もなかった。 それでも、ヶごとの検診がづくたびに、夜にふと目が覚めて呼吸が浅くなる。 もし再発していたら。 もしまた、あのい術の井を見げることになったら。
健の顔が、嫌でも脳裏をよぎる。
――子供も産めない女と、この先何も緒に暮らすって、俺にあるのかな。
あのの、え切った病の空気。 背を向けてっていった夫の音。 病気になったことすら自分の過失であるかのように責めてられ、切り捨てられた記憶は、どれだけが流れても、完全に消えることはない。 私の体から子宮が奪われたという事実は、涯、私について回るのだ。
広告
「……丈夫。数値は落ち着いてる」
自分に言い聞かせるように、さく呟いた。 呼吸をして、井の蛍灯から線をす。
そのだった。
通を挟んだ斜め向かい、処置ののい子に座っている柄なが、界の端に引っかかった。
暗い廊の隅。 紺の毛玉のついたカーディガンを羽織り、膝のに置いた診察用のクリアファイルを、爪がくなるほどく抱きしめている女性。 乱れた黒髪のから覗く横顔は、気に沈んでいた。 頬の肉が削げ落ち、顎のラインが異様なほど尖っている。
代官で見かけたよりも、さらに痩せて見えた。
田美穂だった。
私は息を呑み、子からちがりそうになるのを必で堪えた。 なぜ、彼女がここにいるのか。 ここは婦科の、それも主に腫瘍や篤な疾患を扱う専来のフロアだ。 彼女は健と再婚し、若くして子供を産んだはずではなかったのか。
美穂は俯いたまま、刻みに肩を震わせていた。 にしたファイルのには、何枚かの問診票と検査結果のような類が挟まれているのが見える。 その指先が、激しく震えていた。 かつて健の会社のオフィスで、胸を張り、いヒールを鳴らして私にたい会釈を返してきたあの女の姿は、も形もなかった。
ふいに、美穂が顔をげた。
広告
宙を彷徨っていた彼女の線が、通の向かいに座る私と、真っ向からぶつかった。
美穂の瞳が、恐怖で見かれた。 まるで、見てはならないものを見てしまったかのように、その顔から完全にが抜け落ちていく。
「あ……」
乾いたさな音が、彼女の唇から漏れた。 美穂は弾かれたようにちがった。 膝ののファイルを落としそうになりながら抱え直し、へ向かってに歩きそうとした。
だが、その元がおぼつかない。 歩、歩とんだところで、彼女の体がきくに傾いた。 貧血を起こしたのか、膝の力が抜け、壁に肩を激しく打ち付ける。
バサリ、と音をてて、抱えていたファイルがに散らばった。
「きゃっ……」
周囲の患者たちが驚いて線を向ける。 美穂はに膝をつき、つんいになりながら、震えるで散らばった類をかき集めようとしていた。 だが、指先が言うことを聞かないのか、が滑ってうまく掴めない。 その背は、見ているのが痛々しいほどさく丸まっていた。
通り過ぎて、そのまま自分の番号が呼ばれるのを待つこともできた。 声をかける義理など、私には微もない。 彼女がどんな病気を抱えていようと、どれほど惨めな状態であろうと、それは彼女自が選んだの結果だ。 因果応報。自業自得。 そうので吐き捨てて、線を逸らせば済む話だった。
だが、私のは、すでに勝にいていた。
に散らばっていた枚の問診票を、私は拾いげた。