"二年間買い続けた夫の浮気相手" 第2話
赤ワインのグラスを片に笑う健の腕に、ぴったりと体を密着させている若い女が写っていた。 黒髪を胸元まで伸ばし、勝ち誇ったような笑みを浮かべてカメラを見つめている。
見覚えがあった。 健の会社で経理を担当している、田美穂。 昨の忘会で、「社にはいつも本当にお世話になっております」と、猫撫で声で私に会釈をしてきた、当代半ばの女だった。
私が病院のベッドで孤独に震えていたあの、健はこの女と肌をね、私の体から子宫が切り取られるのを待っていたのだ。 「子供が産めなくなったから」ではない。 すでに別の女としい活を始める算段をえたで、病気と術を格好の実に仕てげただけだった。
私はそののうちに、弁護士の事務所へ駆け込んだ。 泣き叫ぶことも、健を問い詰めることもしなかった。 ただ淡々と証拠をコピーし、夫の隠し座を洗いし、法に認められる最限の財産分与と慰謝料を求した。
調の席で、健は私を「酷な女」となじり、田美穂との関係を「精神に追い詰められた末の過ち」だと主張した。 だが、鮮な写真とホテルの宿泊記録のでは、どんな言い訳も通用しなかった。
婚が成したのは、術から半のことだった。
元に残ったのは、く暮らしたマンションの鍵ではなく、区内のれにあるさな1LDKのアパートの契約と、それなりの額が振り込まれた通帳だけだった。
広告
引っ越しのトラックを見送った、私は何もないフローリングの央に座り込み、腹部の傷痕をのひらでそっと撫でた。 皮膚のに刻まれた本の赤い線。 子供を産めなくなった体。 夫に捨てられた歳の元専業主婦。
「……終わったんだ」
声にすと、胸の奥に溜まっていたたい塊が、しだけ解けたような気がした。 けれど、ち止まっているわけにはいかなかった。 何かをしていなければ、あの病で健が放った「おはもう女じゃない」という言葉が、夜ごとに元で蘇りそうだったからだ。
私は昔から趣で作っていたシルバーアクセサリーの具を引っ張りし、さな作業机を窓際に置いた。 彫用のリューター、ヤスリ、ピンセット、そしていくつかの然。 ネットショップのちげ方をから勉し、パソコンの画面と睨みいながら、無料の設サービスを使って極めてさなオンラインショップを作った。
名は、私の名の文字を取って『YOU』とした。
華美な宝ではなく、常の些細な瞬に、につけたがほんのしだけ背筋を伸ばせるような、シンプルで静かなデザインの指輪やペンダント。 写真の撮り方も拙く、商品の説文も素そのものだった。 それでも、商品をつアップロードするたびに、自分がこの世界に爪痕を残しているような実が持てた。
広告
だが、現実は甘くなかった。 ショップを設して最初の、アクセス数は内や自分自を除けば、ほぼゼロだった。 売れるはずもない。無名の、それもを過ぎた素が片で始めたようなだ。
「やっぱり、無理なのかな……」
目の夜、え切った作業机ので、私はを抱えていた。 こんなことをして何になるのだろう。 健の言う通り、私はでは何もできない、ただの無力な女なのではないか。 そんな自己嫌悪の底に沈みかけていたとき、パソコンの画面がピコンとさく音をてた。
『ご注文が確定しました』
目を疑った。 震えるでマウスを握り、管理画面をいた。
注文されたのは、私が番最初に作った、価な真鍮とシルバーを組みわせたシンプルな細のペンダントだった。価格は千百円。 購入者の欄には、ただ言、アルファベットで名が記されていた。
――MIHO。
所は、都内の角にある単者向けのマンションだった。 そして、注文フォームの備考欄に、くこうかれていた。
『お、閉じないでください。また買いに来ます』
その文字を見た瞬、私の目から、術以来ずっと堪えていた涙が溢れした。 利益など数百円にも満たない。 けれど、顔もらない誰かが、私の作ったものを見つけてくれた。