みかん小説
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"二年間買い続けた夫の浮気相手" 第1話

麻酔から覚めたばかりの私のに最初に届いたのは、乾いたプラスチックの擦れる音だった。

病のい井が、蛍灯のを鈍くね返している。 喉が張り付き、舌が鉛のようにい。 腹部にる鈍い痛みに呼吸を詰まらせながら、私はベッドの脇に置かれたパイプ子へ線を向けた。

そこに、夫の健が座っていた。

彼はスーツの着を脱ぎ、両膝のに置いたスマートフォンを指先で弾いていた。 画面の青いが、その無表な横顔を照らしている。

私が微かにじろぎをすると、擦れの音に気づいた彼が、面倒そうに顔をげた。

「……起きたか」

それが、に及ぶ子宮全摘術を終えたばかりの妻へ向けられた、最初の言葉だった。

痛む腹部を押さえながら、私は掠れた声で言った。

「……しだけ、ませて」

健はちがらなかった。 ため息をつ吐き、指先だけでナースコールを押した。

「護師に頼めよ。俺がに触って、チューブでも抜けたら厄介だろ」

ややかな声だった。 護師が駆けつけ、湿らせた脱脂綿で私の唇を潤してくれるも、健は度も私の顔を見ようとしなかった。 ただネクタイの結び目を緩め、苛ちを隠そうともせずに窓のの曇り空を眺めていた。

護師が会釈をして部をていくと、カチリとドアが閉まった。

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その乾いた音が図だったかのように、健は子の背もたれに体を預け、私を見ろした。

「なあ、子」

声に、微の湿り気もなかった。

「もう子宮、取ったんだろ」

私は麻酔の残るで、彼の言葉のを反芻した。

「……ええ。転移は、なかったみたい」

「そうか。まあ、命が助かったのは良かったよ」

健はのこもらない調でそう言った、スマートフォンを胸ポケットにしまい、膝のに両を置いた。

「でさ。これからどうする気だ?」

「どうするって……」

「お、もう子供産めない体になったんだろ。俺さ、ずっと考えてたんだけど」

彼はしだけ顎を引き、値踏みするような目を私に向けた。

「子供も産めない女と、この先何も緒に暮らすって、俺にあるのかな」

病の空気が、瞬で凍りついたようにじられた。 のが真っになり、腹部の傷の痛みが瞬だけ消えった。

「健……何、言ってるの?」

「聞こえただろ。言葉通りのだよ」

彼は眉ひとつかさずに続けた。

「おが病気になったのは同するよ。でもさ、俺はまだだ。男として、自分の子供が欲しいとうのは自然なことだろう? それを諦めてまで、おの介護みたいな活に付きう義理、俺にあるとうか?」

「私……介護なんて、頼んでない……」

「同じことだよ」

健は腕計に目を落とした。

「女としての能がなくなったおを、俺が養い続ける理由がないって言ってるんだ。

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退院したら、具体な話をめよう。婚届はこっちで用しておくから」

彼はそれだけ言うと、パイプ子からちがった。 ベッドの柵にすら触れず、度も振り返ることなく病のドアノブにをかけた。

「会社、戻るから。必なものがあったらナースステーションに話しろ」

ドアが閉まり、廊へざかっていく革靴の音を聞きながら、私は、いシーツを握りしめた。 涙はなかった。 ただ、え切った病の空気ので、自分の呼吸の音だけが気に響いていた。

――あの男は、最初からこの瞬を待っていたのだ。

その確信は、退院からに残酷な形で裏付けられた。

自宅の斎。 普段なら決してけることのなかった健のデスクの引きしから、見覚えのないクレジットカードの利用細と、興信所の領収が転がりてきた。

細の付を追う指が、刻みに震えた。 級フレンチのディナー、名分。 座のジュエリーショップでの額決済。 そして、週末ごとに利用されている都内のシティホテル。

その付のいくつかは、私が妊治療のホルモン注射で激しい吐き気にのたうち回っていた夜であり、子宮頸癌の告を受けてで夜通し泣きかした週末だった。

そして、帳の隙に挟まれていた枚のスナップ写真。

社員旅か何かの宴席だろうか。

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