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"身重の私を捨てた夫の誤算" 第23話

「まれました! 元気な男の子です!」

胸のに、温かく、ずっしりといさな命が置かれた。 赤く濡れたさなが、虚空を懸命に泳いでいる。 ミルクの匂いと、々しい命の温もり。

「……ああ……」

私の目から、止めどなく涙が溢れした。 それは屈辱の涙でも、悔の涙でもなかった。 自分の力で産み落とし、自分ので守り抜いた、かけがえのない命のみだった。

「よく頑張ったね……まれてきてくれて、ありがとう……」

私は震える指先で、赤ちゃんのさな頬に触れた。 指をきゅっと握り返してくれたその温もりは、どんな暗をも照らしす、私にとってのしい太陽だった。

季節は巡り、京のに柔らかなのが吹き抜けていた。

あの激の同査問会から、ヶが過ぎていた。 世を揺るがした野システムズの正事件は、経営陣の総退陣と巨額の追徴課税、そして指名止処分によって、事実の解体へと向かっていた。

神田玲奈は、の失脚が決定したそのの夜に、級マンションからすべての私物を引き払って姿を消した。 彼女の実の産会社も、野システムズの倒産に伴う焦げ付きによって事業縮を余儀なくされ、彼女は自らが犯した軽な略奪の代償を、失われた社会信用のさとして背負い続けることになった。

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元義母の吉は、誰からの連絡も途絶えた郊の自宅で、今もで暮らしているという。 隣民の証言では、訪れる者もいない玄関先で、「あの子がもうししていれば、今頃は孫を抱いて贅沢ができたのに」と、誰に届くともれないみ言をブツブツと呟き続けているそうだ。 けれど、その言葉にを傾ける者は、もう誰もいなかった。

そして、野。

彼は逮捕こそ免れたものの、業界内での信用を完全に失い、技術役員としてのキャリアは完全に絶たれた。 退職もず、親族の資産も差し押さえられる、彼は都内の片隅にある従業員数名のさなソフトウェア発会社で、初級プログラマーとしての面接を受けていた。

「野さん。……履歴を拝見しましたが、以はで随分と華々しい役職に就かれていたようですね」

さな会議で、自分より歳も若い面接官が、怪訝そうに鏡を押しげた。

「ですが、うちで募集しているのは、現で臭くコードをく請けのプログラマーです。マネジメントの経験はいりません。……この課題コードのメモリ管理について、あなたならどうリファクタリングしますか?」

机のに置かれた、簡素なテストプリント。 かつてのなら、「そんならない仕事は部にやらせる」と吐き捨てていただろう、初歩なポインタ演算の問題だった。

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は、物のスーツの膝ので拳を握りしめた。 額から脂汗が滲みる。 喉の奥がカラカラに渇き、声がうまくない。

宮子は、もういない。 徹夜で代わりに答えをいてくれる法師は、この世界のどこにもいないのだ。

「……そ、それは……」

は震えるでボールペンを握った。 うまくけない。めるだけで、が止まる。 面接官のややかな線が突き刺さる、彼は恥とけなさで顔を真っ赤にしながら、それでも、必にペンをかした。

遅れの、彼自ののスタートだった。 宮子から盗んだ栄をすべて剥ぎ取られ、何もない無能な自分と向きい、自らので恥をかきながらコードを学ぶ――それこそが、彼が背負うべき、最も現実で残酷な罰だった。

の型連休がけた頃。 私は、緑の漏れが揺れる国サイバー全保障研究所の正面玄関にっていた。

腕のには、ヶを迎え、ぷくぷくと頬を膨らませて眠る息子の守(まもる)がいる。 首元には、修復を終えたのロケットペンダントが静かに輝いていた。

専の職のによって、歪みは丁寧に直され、壊れた蝶番も完璧に修復されていた。 をくと、そこにはあののから救いした、き父母のさな写真が、変わらぬ温かな微笑みを湛えて収まっている。

秘密のマイクロチップなど、どこにも入っていない。 ただ、私をし、守ろうとしてくれた両親の記憶だけが、そこにあった。

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