"身重の私を捨てた夫の誤算" 第21話
ガタガタガタッ!
子が派な音をてて倒れ、は両で顔を覆い、そのに崩れ落ちた。
「……けません」
掠れた、蚊の鳴くような声だった。
「聞こえません。野部、マイクを使って話しなさい」
議が促す。 はに膝をついたまま、脂汗と涙でぐしゃぐしゃになった顔を歪ませ、マイクのコードを繰り寄せた。 そして、法廷にいるすべてのので、慟哭のような告を吐きした。
「けません……ッ! 俺には……このコードが読めないんだ……ッ!」
議が、爆発したようなざわめきに包まれた。 野システムズの役員たちがを抱え、弁護士がを仰ぐ。
「野部、それはどういうですか!?」
「俺がいたんじゃない……! の基盤システムも、そのの改修モジュールも、特許のアルゴリズムも……俺がいたものなんて、つもないんだ!」
はを拳で叩きながら、獣のように泣き叫んだ。
「全部……宮子がいたんだ! 俺の元妻の、堂宮子が……! 俺はあいつがでいたコードを、自分の名義にき換えて会社にしていただけなんだよ!」
「な……何ということだ……」
査問委員の誰かが呟いた。 議が厳しい表でを乗りす。
「野部。貴方は、自らが無能力であることをりながら、妻の研究成果を組織に盗用し、自らの実績として国を欺き続けていたと……そう証言するのですね?」
広告
「っていました……」
は額をに擦り付け、震える声で絞りした。
「最初から、分かっていました……! あいつが才で、俺なんかの元にも及ばない本物だってことくらい、俺が番よくっていたんだ! でも……認めたくなかった! あいつの名をせば、俺がただの無能な男だってことがバレてしまうのが……怖かったんだよぉッ!」
『っていました』。
その文字が、会の空気を決定に凍りつかせた。 らなかったのではない。 騙されていたのでもない。 妻の才能の輝きを完全に理解していながら、そのを自らの懐に隠し、彼女をに閉じ込め、最には「カエルみたいだ」「無能な居候」と罵って放りしたのだ。 その底れない浅ましさと残酷さに、傍聴席の誰もが息を呑み、軽蔑の線をにいつくばる男へと注いでいた。
ざわめきが収まらぬ、議が線を転じ、私へと向けた。
「特別技術鑑定、堂宮子博士」
私は静かにちがった。 腹部に、ギュッと絞られるようない張りがる。 薬効が切れかけている。がなかった。 私は机の縁にそっと指先を添え、痛みを悟られないように呼吸をえた。
「はい」
「野氏の証言は、事実ですか。あなたが、過の野システムズの主な基盤コードを、すべてで設計・発していたのですか?」
広告
「事実です」
私の澄んだ声が、静まり返った議に響き渡った。
「私が保管していた当のローカルリポジトリ、設計ノートの暗号署名、そして先ほど提した鑑定資料の通りです。今回の障害原因となったパッチも、、私が自宅で破棄した実験用コードを氏が無断で持ちし、パラメータの性を確認せずに本番環境へ適用したことによる、為な過失です」
議はく頷き、そして、どこか痛ましげな表で私を見つめた。
「博士。もうつ、伺わなければなりません。……なぜ、あなたほどの脳を持つ方が、これほどな剽窃と搾取を、ものきにわたって告発せず、沈黙を続けていたのですか? あなたがもっとく声をげていれば、このような国インフラの危は未然に防げたはずです」
い問いだった。 それは、私がこの数、自らの胸に何度も突き刺してきた刃そのものだった。
会にいる全員が、私の答えを待っていた。 を告発し、被害者としての正当性を声に主張することなど、いくらでもできた。 夫に脅されていた、庭内暴力に怯えていた、孤児院育ちで逃げがなかった――そう言えば、世は私に同し、涙を流してくれただろう。
けれど、私はそのを選ばなかった。
私はマイクを引き寄せ、まっすぐにを見据えた。
「……最初、私が同したからです」
私の言葉に、議が静まり返った。
「結婚した当初、私は信じていました。夫婦とは互いのりない部分を補いうものであり、技術者としての私の能力が夫の助けになるなら、名がどちらのものであろうと構わないと……そう自分に言い聞かせていました」