"身重の私を捨てた夫の誤算" 第17話
神崎がちがりかけた、私はベッドからをろした。
「宮子さん、いけない!」
「……きます」
私は点滴スタンドを握りしめ、ゆっくりとちがった。 元が微かにふらつく。腹部には、鈍い、けれど確実な痛みの波が押し寄せていた。
「もう、これで終わりにしなければならないんです。の説会をに、あの男が何を言いに来たのか……ここで完全に断ち切らなければ、私はへめません」
神崎は私の青い、けれど点の迷いもない瞳を見つめ、やがてく頷いた。
「……分かった。だが、絶対に無理はさせない。私の指示に従ってくれ」
私は医療用ガウンのにのカーディガンを羽織り、子に乗せられての通用へと向かった。 そこは、夜は完全に閉鎖されている、除けのついた搬入だった。
たい夜気が、の匂いと共に肌を刺す。 通用のシャッターので、ずぶ濡れになったが、の屈なSPに両腕を固められてち尽くしていた。
コートも着ず、のね返ったビジネススーツのまま、は全を震わせていた。 髪はで額に張り付き、目は異様なを帯びて血っている。
「……宮子」
子で現れた私を見るなり、の喉から掠れた声が漏れた。 彼はSPの腕を振り解こうと暴れたが、ビクともしなかった。
「宮子……! 頼む、話を聞いてくれ! 頼むから!」
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「SPさん、しだけ腕を緩めてあげてください。逃げたりはしませんから」
私の言葉に、SPは警戒を解かないまま、をそのにたせた。 は拘束が解かれた瞬、たまりの広がるコンクリートのに、両膝から崩れ落ちた。
ピシャリとたいがねる。 かつて常に質なスーツを纏い、孤児院育ちの私を見ろしていたあの男が、ので無様に座をしていた。
「宮子……俺が悪かった! 全部、俺が悪かったんだ!」
は額をコンクリートに擦り付け、濁った声で泣き叫んだ。
「おの名を消したのも、実績を横取りしたのも、全部俺のさのせいだ! おがあまりにも才で……凄すぎて、俺は怖かったんだよ! おが表台にたら、俺がただの無能だってことが世にバレてしまうのが恐ろしかったんだ!」
額からと血を流しながら、は顔をげた。 その表には、惨めな願と、そして隠しきれない打算が渦巻いていた。
「でもな、宮子! 俺たちは、緒に暮らしてきた夫婦だっただろ!? 楽しいことだってあったはずだ! お腹の子だって……俺の子じゃないか! 頼むよ、の説会、俺の代わりに壇にってくれとは言わない! ただ、あのパッチの修正順を……俺が読めば分かるような解説メモを、枚だけでいいからいてくれ!」
はいつくばりながら、私の子の元へを伸ばそうとした。
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「それさえあれば、俺は助かるんだ! 会社も潰れずに済む! そしたら、俺は玲奈と完全に縁を切る! おともう度やり直すよ! 今度こそ、おの名を全部元に戻して、おを正当に評価する! 子どもだって、俺が責任を持って何自由ない活をさせてやるから……! だから頼む、俺を見捨てないでくれッ!」
たいが、容赦なくの背にり注いでいた。 私は、子のから、にまみれてすがりつく元夫の姿を、ただ静かに見つめていた。
涙もなかった。 りすら、通り越していた。 そこにあったのは、底れない憐憫と、そして背筋が凍るほどの拒絶だけだった。
この男は、今この瞬すら、何も理解していないのだ。
「……さん」
私は静かにをいた。 音にかき消されそうなほどさな、けれど凛とした声だった。
が、救いを求めるようにパッと顔をげた。
「あなたはさっき、『おの名を元に戻してやる』と言ったわね」
「あ、ああ! 戻す! 全部戻す! 会社のホームページにも、特許の類にも、全部おの名を――」
「なぜ、あなたが『戻してやる』の?」
私の問いに、の表がピシリと止まった。
「最初から私のものだった名を、私の成果を、なぜあなたが許をして『戻してやる』なんて言えるの?」
「そ、それは……言葉の綾で……」
「言葉の綾じゃないわ。それが、あなたの本質よ」
私は子の肘掛けを握りしめ、ゆっくりと息を吸い込んだ。