"身重の私を捨てた夫の誤算" 第11話
「て……堂……宮子……?」
佐々が呟いた。
「これ、野部の……元奥さんの名じゃないか……?」
「な、なんだこれは!?」
が狂ったようにキーボードを連打した。
「バカな! なぜかない! パスワードが変わっている!? クソッ、け! けよッ!」
ガシャン、とマウスがに叩きつけられる音が響いた。 は真っ青な顔でち尽くし、全をガタガタと震わせていた。
エンジニアたちのややかな、そしてすべてを悟ったような線が、の背に突き刺さる。 もはや、言い逃れは能だった。 彼が頼みの綱として縋り付こうとしたコードの奥底に、彼が消しったはずの私の名が、消せない焼印のように刻まれていたのだから。
パイプ子からちがった玲奈が、ハンドバッグを抱きしめ、ずさりするように会議の扉へと向かっていた。
「さん……あなた、本当に……」
玲奈の声は震えていた。 侮蔑と、騙されていたことへのり、そして自らの浅ましさへの絶望が混ざりった、酷い声だった。
「全部、あの奥さんのものだったの……? あなたの実績も、会社の成功も……全部……?」
「違う! 玲奈、待て! 違うんだ!」
の叫びを無して、玲奈は振り返ることもなく会議から駆けしていった。 崩壊は、すでに始まっていた。
私は静かに息を吐きし、画面の接続を遮断した。 胸の奥に、わずかな達成と、それ以のい虚しさが広がっていく。
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ピリリリリ、ピリリリリ。
私の元のスマートフォンが、けたたましく鳴り響いた。 画面を見ると、着信拒否をすり抜けるように、内閣府の代表回線を経由した緊急転送のランプが点滅している。
発信元の番号は、野システムズの役員だった。
神崎が私を見る。私は頷き、スピーカーフォンの通話ボタンを押した。
「……もしもし」
受話器の向こうから聞こえてきたのは、獣のような荒い息遣いだった。
『……宮子』
の声だった。 掠れ、震え、りと焦燥で今にも張り裂けそうな声。
『おだな……。今の、おがやったんだな……!?』
「何のことでしょうか、野部」
私はを交えず、淡々と返した。
『々しい真似をするなッ!』
の声がスピーカーを震わせた。
『なぜあそこをロックした! あのスクリプトがあれば、俺は今のところは社内を抑え込めたんだ! お、俺を殺す気か!? 会社を潰す気か!?』
「あれは私のコードです。、私が私の責任でいたもの。あなたが勝に持ちして、自分の実績として誤魔化すための具ではありません」
『おのものだあ!?』
が嘲るように笑った。だが、その笑い声は恐怖で裏返っていた。
『勘違いするなよ宮子! おが専業主婦としてでのうのうと暮らせていたのは、誰の稼ぎのおかげだとってんだ! 俺が注案件を取ってきて、俺が会社でをげて、そのをに持ち帰ってたからだろうが! おの脳に飯をわせてやってたのは俺だ!』
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「その結果が、私の名をすべての記録から消しることだったの?」
私のたい問いかけに、話の向こうが瞬、息を詰まらせた。
「見たわよ、過のリポジトリログを。あなた、私がいたコードの作者名を、スクリプトを使って全部自分の名にき換えていたわね。特許の願類からも、私の痕跡をすべて消していた」
沈黙が流れた。 数秒の、がき直ったようにでまくしててきた。
『……それがどうしたって言うんだよ! お、当自分から言っただろうが! 「表にるのは苦だから、さんのサポートでいい」って!』
「私はサポートすると言ったの。あなたにを盗ませると言った覚えはありません」
『屁理屈を言うな! 夫婦は体だろうが! 俺の名でした方が、会社にも箔がつくし、案件の単価もがる! その結果、い役員報酬が入って、おも美いものをえてただろ!? 名が誰かなんて、そんな些細なこと、どうだっていいじゃないか!』
些細なこと。 この男にとって、が魂を削ってみした成果も、耐え忍んできた私の尊厳も、すべては「と箔」に換算される些細なゴミに過ぎなかったのだ。
『おい、宮子、聞いてるのか!?』
の声が、次第に願へと変わっていく。
『頼むよ……ロックを解除してくれ。このままじゃ、の説会で、俺は本当に更迭されるんだ。