"身重の私を捨てた夫の誤算" 第6話
神崎が淹れてくれた温かいノンカフェインのハーブティーの湯気が、くちっている。
キーボードに指を置く。 、庭という檻ので、の顔を窺いながら隠れるように叩いていた鍵盤。 けれど、指先はかつての覚を完璧に覚えていた。
画面を滝のように流れていく、緑のログデータ。 野システムズが管理しているサーバのアクセス記録を辿り、が持ちした破損パッチの構造を解析していく。
作業始からわずか半。 私は、基盤ネットワークを迂回させて政データを全に退避させる、暫定なパッチコードを組みげた。
「……神崎さん。これをデジタル庁のコアサーバに流してください。これでの朝の全国止は防げます」
「信じられないさだ……」
神崎が嘆の声を漏らし、直ちにデータを暗号化して本庁へと送信した。 これで、国規模の麻痺という最悪のシナリオは回避された。
しかし、私の画面には、もうつのウィンドウがかれたままになっていた。 野システムズの社内リポジトリ――過、が「自分の実績」として保管してきた発ログのアーカイブだった。
画面に並ぶプロジェクト名の数々。 そのつひとつに、私の記憶が焼き付いている。
妊娠初期、いつわりに苦しみながら洗面所で吐き、それでもに「納期がなんだ」
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と泣きつかれて徹夜できげた分散データベースのコード。 が浮気相と旅にっている、で義母の介護のを縫って構築した暗号化モジュール。
それらすべてのソースコードの末尾、作成者を示す署名欄(Author)に、私の目は釘付けになった。
『Author: Koichi Amano』 『Copyright: Amano Systems Inc. / Koichi Amano All Rights Reserved.』
そこにあったはずの、私の名――『Miyako Tendo』の文字列は、綺麗さっぱり消されていた。 それどころか、コミット履歴の過ログすら、専用のスクリプトを用いて自然に改ざんされ、あたかも最初からがでキーボードを叩いて作りげたかのように伪装されていたのだ。
「……ここまで、していたのね」
声が震えた。 私は、が私の成果を会社に提していることはっていた。 けれど、それはあくまで「社内な便宜」であり、会社の幹部やチームのくらいは、私がサポートしていることをっているのだと、どこかで信じ込んでいた。 『夫婦の共同作業』なのだと、自分に言い聞かせて自分を慰めていた。
だが、現実は違った。 は、私がこの世にしていた痕跡そのものを、デジタルデータのから完全に抹殺していたのだ。 私から名を奪い、実績を奪い、自尊を奪い、そうして来がった空虚な巨塔ので、あの男は私を「無能な居候」と罵っていた。
胸の奥底から、黒々としたりが静かにせりがってくるのをじた。
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ピピッ。
静まり返った病に、私の私用スマートフォンの着信音が鳴り響いた。 画面を見ると、の名が表示されている。 着信履歴は、すでに件を超えていた。
通話を拒否すると、数秒にメッセージの通が崩のように押し寄せてきた。
『おい宮子、話にろ!』 『さっきの態度はなんだ! 俺に恥をかかせて満か!?』 『お、自分が何をしたか分かってるのか? 会社の層部から詰められて、俺は今それどころじゃないんだ!』 『母さんもショックで寝込んでるぞ! しは悪いとわないのか!?』
自分勝な文面をスクロールしていく。 やがて、メッセージの論調は焦燥と懇願、そして卑劣な脅迫へと変わっていった。
『頼むから戻ってきてくれ。今夜にあのルーティングの直し方を教えてくれればいいんだ』 『おだって、まれてくる子どもの父親が無職の犯罪者になったら困るだろ? 世体が悪くて子どもがだとわないのか?』 『俺たちのは何だったんだよ。夫婦だったんだろ? 公私を混同するな。仕事とは別だろ!』 『の説会、おが裏で回しして俺の発表原稿を作ってくれないと、本当に全部終わりなんだ。頼む、宮子。今回だけだから。今回さえ乗り切れば、またやり直せるから』
画面のが、暗くなった病ので青く私の顔を照らしていた。
まれてくる子どものため? 公私混同? ?