"身重の私を捨てた夫の誤算" 第4話
「堂博士。緊急事態なのです。昨夜未、あなたがかつて基本設計を掛けられた統政インフラ『J-GOVコア』の基盤システムにおいて、致命な作止が発しました。全国の自治体窓、税務、民基本台帳の同期が完全にストップしております」
神宮寺は顔をげ、すがりつくような目で私を見つめた。 その額には、の寒のであるにもかかわらず、玉のような脂汗が浮かんでいる。
「現、保守を担当しているベンダーの技術者たちが総で解析に当たっておりますが、原因の特定すらできておりません。このままの朝を迎えれば、全国の融関と政サービスが連鎖にブラックアウトします。……あのシステムの根幹ロジックを理解し、復旧できるのは、設計者であるあなたしかいないのです」
私は神崎のを借りて、ゆっくりとちがった。 破れたストッキングの膝から鈍い痛みがる。 だが、私の瞳からは、先ほどまでの絶望と涙が急速に引いていた。
で汚れたペンダントの破片を、コートのポケットくに滑り込ませる。
「……野システムズが納入した、例のアップデートパッチを適用したのですね」
私の静かな言葉に、ろで直していたの肩が、ビクリとねがった。
神宮寺は苦渋に満ちた表で頷いた。
「ええ。野システムズが提したルーティングモジュールを組み込んだ途端、カーネル層で例処理が無限ループを起こしました。
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……博士。あれは、あなたがかれたコードではないのですか?」
「私がいたものではありません」
私は振り返り、ややかな線をに向けた。
「あれは、私がまだ構造の検証用にき殴った、未完成の破棄用スクリプトです。実環境に組み込めばデッドロックを起こすのは、初歩な識があれば誰にでもわかるはずです」
その瞬、広を支配していた空気が完全に変わった。
吉と玲奈は、まだ事態がみ込めていない。 「どういうこと? さんが作ったんじゃないの?」と玲奈が怯えた声で呟く。
だが――だけは違った。
彼の顔から、サーッと血の気が引いていくのを私は見逃さなかった。 彼は驚愕していない。 彼が浮かべているのは、「なぜ宮子が博士と呼ばれているのか」という疑問の表ではなかった。 そこに張り付いていたのは、ただ純粋な、自らの欺瞞が暴かれようとしていることへの恐怖と焦燥だった。
はっていたのだ。 最初から。 私が誰で、何を作ることができ、どれほどの能力を持っているのかを。
は震える膝を押さえつけるように歩へると、SPの制止を擦り抜けて、私に向かって必にを伸ばした。
「み、宮子……!」
そのからびしたのは、謝罪でも、驚きでもなかった。 過の結婚活ので、彼が困窮したに必ず私に向けてきた、あの聞き飽きたフレーズだった。
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「宮子、今回もみたいに頼む! おがまずパッチを当てて、内部エラーを抑え込んでくれ! な? 話はそれからだ。婚の類だって、俺がもう回裁判所に掛けって取り消すから……!」
そのにいた全員のきが止まった。
神宮寺が怪訝そうに眉をひそめ、神崎の瞳に軽蔑のがる。 玲奈が「え……? みたいにって……何……?」と愕然とした声を漏らす。
ののには、いまこの瞬すら、反省など微もしていなかった。 彼にとって、私は「自分を支えるのが当然の便利な具」であり、どれほど蹴にしても、最には自分がを撫でてやれば修復作業を引き受ける、都のいい法師でしかなかったのだ。
入社員の頃、彼が初めて任されたプロジェクトで壁にぶつかったもそうだった。 結婚して、私の名を業界から消しり、自らが「若き才プロジェクトマネージャー」として脚を浴びるようになったもそうだった。 彼が社内でトラブルを起こすたび、夜の自宅の斎で、私がコードをき直して彼の柄にしてきた。
『宮子、頼むよ。夫婦なんだから、俺の世はおの幸せだろ?』
そう言って笑っていた男の顔が、目のの醜く歪んだ顔となる。
私は、の目を真っ直ぐに見据えた。 を切交えず、ただ事実だけを告げるように、静かにをいた。