"身重の私を捨てた夫の誤算" 第2話
吉はバッグの底を掴むと、たいアスファルトのに向けて逆さにぶちまけた。
バサバサと音をてて、私のわずかな所持品が散乱する。 すり減った母子帳、銭しか入っていない物の財布、数枚の領収、そして――。
カラン、と乾いた属音が響いた。
さなの塊が、私の元からしれたところへと転がっていった。 それを見た瞬、私の全の血の気が引いた。
「あ……」
くなった両親が、私に遺してくれた唯の形見だった。 さな楕円形のロケットペンダント。には、私が物つくに界した父と母の、褪せた写真が枚だけ収められている。 寄りのない私が、孤児院のたいベッドで孤独に耐えられたのも、このペンダントを胸に握りしめていたからだった。
吉の細い目が、ギラリと嫌らしいを帯びた。 彼女は素く腰をかがめ、そのペンダントを拾いげた。
「へえ……何だいこれは。っぺらい物に見えるけど、留め具のところ、これ本物のじゃないのかい?」
「返してください……!」
私はきなお腹を抱えたまま、必にを伸ばした。
「それだけは、返してください。私の両親の形見なんです。野のものは何も入っていません!」
「形見だあ? 親の顔もらない捨て子の分際で、偉そうに形見なんてにするんじゃないよ! どうせうちの息子の稼ぎからくすねたで買ったんだろうが!」
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「違います! それは私が施設に入ったから持っていたものです!」
必の叫びは、しかしたいのに掻き消された。 歩みを止めて戻ってきたと玲奈が、腕を組んでその様子を面そうに眺めていた。
「母さん、もういいだろ。そんなゴミみたいなガラクタ、どうせ偽物だよ」
が嘲るようにを挟む。
「偽物でも何でも、この女が持っていること自体が癪に障るんだよ!」
吉の唇が、醜く吊りがった。
「うちの敷居を汚し続けた疫病神が。こんなものがあるから、いつまでも未練がましく被害者面をするんだ!」
吉は腕をきく振りげると、私の目ののアスファルトに向かって、ペンダントを全力で叩きつけた。
パキン、と質な音が響き、繊細なの蝶番が弾けんだ。
「やめて――!」
私の喉から、鳴が引き裂かれるように漏れた。 しかし、獄はそこで終わらなかった。
吉は尖ったハイヒールの踵を、面に転がったロケットペンダントのに正確に乗せると、全体をかけて無残に踏み躙ったのだ。
ギリ、ギシリ、とアスファルトの砂利と属が擦れう、鈍く残酷な音がの奥に突き刺さる。
「やめてください! お願いですから、やめて!」
私は体裁も、ヶのい体であることも忘れ、たい面に両膝をついた。 ストッキングが破れ、膝僧の皮膚が裂けて血が滲む。
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それでも私はにまみれたで、吉の靴にしがみつこうとした。
「それだけは……それだけは、お父さんとお母さんが、私に残してくれた全てなんです……!」
「うるさいよ! 親のをらない来損ないが、族ごっこなんかしてんじゃないよ!」
吉はさらに踵をねじり込んだ。 ペンダントの蓋は無残に押し潰され、のさな写真が破れ、に塗れていく。 やがて満したように吉がを引いた、そこに残されていたのは、かつての美しい細の面すらない、歪にひしゃげたの破片だけだった。
「……あ……」
声にならなかった。 私は震える指先で、氷のようにたくなったその属の塊を、つずつ拾い集めた。 界が涙で滲んで、元がよく見えない。
ごめんなさい、お父さん。 ごめんなさい、お母さん。 私がかったせいで。私が、こんな男たちを選んでしまったせいで。
「あはは、傑作ね。面にいつくばって、まるで溝鼠みたい」
玲奈がスマートフォンを構え、画を回しながらクスクスと笑っていた。
「ねえさん、これSNSに載せたらバズるんじゃない? 『略奪された元妻の末』ってタイトルで」
「いいなそれ。世に恥を晒してやれよ」
は指先でくなった煙を弾いた。 のついた吸い殻が、私のだらけになったの甲にかすり、さな傷のさと痛みがった。
けれど、もうる気力すら湧かなかった。
の奥底で、何かがプツリと音をてて切れた。