"身重の私を捨てた夫の誤算" 第1話
たいが、京庭裁判所のい鉄扉を抜けて吹き抜けていく。
のどんよりとした曇り空からは、今にも湿ったが落ちてきそうだった。 私は、ヶを迎えて丸く突きたお腹を両で庇いながら、凍てつく段を歩ずつ、慎にりていた。
指先はかじかみ、覚がほとんどない。 にく握りしめているのは、数分に交付されたばかりの婚判決だった。
そこには、私が野の妻ではなくなったこと、そして、野の切の財産分与と慰謝料、さらには子どもの養育費の請求権すら放棄したという、およそ正気とはえない文言が並んでいた。
「これでれて赤のだな。ご苦労さん、元奥さん」
階段の踊りに差し掛かったところで、から嘲笑を含んだ男の声がってきた。 見げる必もなかった。 元夫の野だ。
仕てのいいキャメルのチェスターコートにを包んだの腕には、派な毛皮のショールを羽織った若い女がぴったりと抱きついていた。 神田玲奈。が半ほどから堂々と囲っていた相であり、彼が部を務める野システムズの取引先の令嬢だった。
「本当にお疲れ様、さん。やっとあの気な居候と縁が切れたのね」
玲奈はった顔ちを歪め、階段のにち尽くす私を、汚物でも見るような目で見ろした。
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「見てよ、あの格好。お腹ばかり膨らんで、まるでカエルみたい。よくあんなみすぼらしい女を何もに置いておけたわね。私ならで耐えられないわ」
「仕方ないだろ。孤児院育ちで寄りがなくて、俺が拾ってやらなきゃ野垂れにするしかなかった女だ。けをかけてやった結果が、あの恩らずな態度さ」
はコートの内ポケットからのライターを取りし、煙にをつけた。 煙をわざと私の顔に向けて吹きかける。
「おい、宮子。お、これからどうやってきていく気配だ? 職歴もろくにない無職の妊婦を雇ってくれる奇特な会社が、この世にあるとでもってるのか? まあ、せいぜい段ボールハウスでも探すんだな。おにはそれくらいがお似いだ」
私は唇の端をく噛みしめ、ただ黙ってコートのポケットに両を滑り込ませた。 言い返す言葉がないわけではない。 ただ、この数ヶに及んだ沼の協議と調、そしてが雇った悪辣な弁護士による執拗な言葉の暴力によって、私の体力も気力も限界まで削り取られていた。
お腹のの命が、私の緊張を察したのか、奥くでさく悶えした。
(ごめんね。もうしだけして)
のでそう呟く。 この理尽な判決を受け入れたのは、に屈したからではない。 刻もくこの男と、そしてこの男の背にある野というから逃げし、この子を私のだけで育てるための、最限の代償だった。
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「きましょう、さん。あんな貧乏神のくにいたら、こっちまで運気が落ちちゃう」
「そうだな。さっさと美いものでもいにこう」
が嘲笑いながら、駐の級へと歩きそうとした、そのだった。
「待ち伏せしなさいよ! この棒猫が!」
甲い、をつんざくような声が裁判所の庭に響き渡った。
振り向くもなく、股で詰め寄ってきたが、私の肩を乱暴に突きばした。 敷のにたたらを踏み、きなお腹を庇いながらなんとか倒れずに踏みとどまる。 息を切らして私のにちはだかったのは、元義母の野吉だった。
派なブランドもののスカーフを首に巻き、眉にい皺を刻んだ初老の女は、般若のような形相で私を睨みつけていた。
「お義母さん……もう裁判は終わりました。私は何も――」
「黙りなさい! 誰がお義母さんだよ、汚い孤児のくせに!」
吉は私の弁を遮り、私の肩にかけられていた使い古しの布製トートバッグにを伸ばした。 凄まじい力で引ったくられ、持ちがブツリと引きちぎれる。
「何をするんですか! 返してください!」
「とぼけるんじゃないよ! をていく、目のものを持ちしたに決まってるんだ! 育ちの悪い娘が、ぶらでていくはずがないだろうが!」