"母がナイフで砕いた自分の名前" 第14話
「れの隣の母で寝かされていたちゃんが、夜に激しいをした。最初は邪だとわれていた。でも、は度を超えて、あの子は激しく泣き叫んだんだ。のついたように、何度も、何度も」
「母は……気づかなかったんですか?」
「気づかなかったんじゃない」
杉本さんは、苦いものを吐き捨てるように首を振った。
「泣き声は、聞こえていたはずだよ。れと母は渡り廊で繋がっていたんだから。でもね、子は……部からなかったんだ」
「え……」
「形の顔の仕げだった。の形の顔はね、度糊を打ったら、乾くまでの数分のあいだにすべての細を決めなきゃならない。途でを止めれば、が歪んで、すべてがゴミになる。に度の、槙野子の最傑作が、泡に帰す」
杉本さんの言葉が、い槌のように私のを打ち据える。
「子はね、泣き叫ぶが子の声を聞きながら……『あとし、このを置き終えるまで』『あと分、このが乾くまで』と、自分に言い訳をして、作業を続けたんだよ」
息ができなかった。 胸が圧迫され、肋骨がきしむ。
「夜がけて、ようやく形を完成させた子が母にったとき、ちゃんはもう……泣き声すらげていなかった。で識を失い、全を激しく痙攣させて、唇をにして倒れていたんだよ」
「そんな……」
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「急性化膿性髄膜炎だった。発見がもうし遅れていたら、脳症で命を落としていたか、い遺症が残っていたと医者に言われたよ。救急が呼ばれ、病院に担ぎ込まれて、晩、の境をさまよった」
杉本さんは、自分のの首筋を指先で押さえた。
「髄膜炎の併症で、のののリンパ節が激しく化膿して自壊したんだ。皮膚が壊して、肉がえぐれた。緊急術で命は取り留めたが……あの子の首筋には、ケロイド状の醜い痕が残ることになった」
あの痕。 の首筋にある、ののひらほどの赤黒い皮膚の変。
『が赤ん坊のとき、い病気にかかった痕だ』 父が昔、吐き捨てるように言った言葉が、ので鮮血のように蘇る。
「佐伯の親類が集まって、病院の廊で子を取り囲んだよ」
杉本さんの声は、いまや氷のようにたかった。
「舅は杖でを叩き鳴らし、姑は子の髪を掴まんばかりにして罵った。『この殺し!』『自分の名誉欲のために、佐伯の跡取りを殺しかけた悪魔!』『おが切れを弄っていたせいで、あの子の首に消えない焼印がついたんだ!』ってね。あんたの父親も……子を庇わなかった。それどころか、病のの廊で、座する子の顔を力任せに殴りつけた」
殴られた母の姿が、鮮な映像となって私の脳裏を焼き尽くす。
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「父親は言ったそうだよ。『おのその汚いがままが、息子を殺しかけたんだ。おはもう度と、自分の名をにするな。槙野子という化け物は、今んだとえ』とね」
「父さんが……」
「でもね、真由さん」
杉本さんは、れみのこもった目で私を見つめた。
「子を番激しく責めてたのは、佐伯のでも、夫でもない。……子自だったんだよ」
鉢の炭が、パチリと爆ぜた。
「あの子はね、病院の集治療のガラスに額を押し付けて、識のないが子を見つめながら、狂ったように自分の指を壁に打ち付けて爪を剥いだんだ。『私のせいだ』『私が槙野子でありたいと願ったせいで、あの子を焼き殺しかけた』って」
杉本さんの目から、筋の涙が頬の皺を伝ってこぼれ落ちた。
「あの子は、そので実に戻ると、徹夜で作ったあの最傑作の形を、自らので々に引き裂いた。具も、誌も、賞状も、すべて井戸に投げ込もうとしたのを、私が必で止めて、誌と古い形だけを預かったんだ。あの子は泣きながら言ったよ」
『千代さん、私はもう、名を名乗りません。佐伯の妻として、の母親として、をかけてあの子に詫びます。私が自分のためにきることは、罪なんです』
「それからの子は、あんたもっての通りさ。自分を殺し、を殺し、佐伯のの奴隷のように働き詰めて、姑を取り、夫に尽くし、ちゃんを派に育てげた。
……あの子にとって『佐伯子』という名はね、奪われた名じゃない。