"母がナイフで砕いた自分の名前" 第13話
母があれほどの形を作れるだったなんて、私はので、度もらされずに育ちました。母は結婚してから、度とに触らせてもらえなかったと聞きました。佐伯のと、私の父が、母のを力ずくで奪ったのだと……私は、そうっていました」
「っていた?」
杉本さんが顔をげた。その双眸が、射抜くように私を捉える。
「過形だね。何かあったのかい」
私は喉の奥が引き攣れるのを覚えながら、告した。 座の料理で、ケーキのの『佐伯』の文字を削り落としたこと。 『槙野子』とき直したこと。 それを見た母が激昂し、まるで罪を告発されたかのように取り乱してケーキを破壊したこと。 そして、母の部で見つけた、何体もの名を削り取られた形たちのこと。
私の話がむにつれ、杉本さんの表は見る見るうちに険しくなっていった。 箸を握る節くれだった指が、刻みに震えている。
「——母は言いました。兄の首筋にある痕は、自分が殺しかけた痕だと。槙野子という名を欲しがったせいで、命を奪いかけたのだと……杉本先、お願いです。本当のことを教えてください。、体何があったのですか」
私の言葉が終わると同に、バチン、と乾いた音が響いた。
杉本さんが、箸を鉢の縁に叩きつけていた。
「……馬鹿だねえ」
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絞りされた声は、りと、い傷に震えていた。
「あんた、なんて無神経で、残酷なことをしたんだ」
「え……」
「『佐伯』を削って『槙野』に戻した? それが母親のためだと、救済だとでもったのかい?! あんたがやったのはね、、血を流しながらやっとのいで塞いできた古傷に、焼けた箸を突っ込んで掻き回したのと同じだよ!」
老の声が、狭い居に反響する。 私は息を呑み、体を縮こまらせた。
「先……」
「子はね、才だったよ」
杉本さんは井を見げ、いを繰り寄せるように目を細めた。
「研究所には何もの弟子がいたが、あの子の指先は特別だった。の繊維本の嫌を見極めて、まるできているの皮膚を紡ぎすように形を産み落とした。あの子の作る形にはね、が籠もりすぎていたんだ。美しくて、妖しくて、度見たら魂を抜かれるような形だった」
杉本さんのが、湯みの縁をなぞる。
「でもね、代が悪かった。、方の旧に嫁ぐ女が、自分の名で板を掲げて芸術を気取るなんて、世が許さなかった。佐伯のは、この辺りでも名の通った名だ。商売を広くやっていて、世体と柄がすべてだった」
「母は……誌にいていました。義母から切れ弄りだと罵られたと」
「ええ、罵られたさ。でもね、子は諦めきれなかったんだよ」
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杉本さんの声が、段とくなった。
「結婚して、男のちゃんを産んでからも、あの子のはめなかった。それどころか、子どもを産んだことで、あの子の形は凄みを増したんだ。母と子をテーマにした、魂を削るような作をいついてしまった。京の全国展に品するって、あの子は寝るも惜しんで取り憑かれたようにを弄った」
「京の、全国展……?」
「陸展で賞を取った翌のことだよ。昭。ちゃんが、まだ歳になったばかりのだ」
杉本さんの瞳に、あのの景が蘇っているかのようだった。
「子は夫に……あんたの父親に座したんだよ。『これが最です。この全国展で納得のいく形が作れたら、きっぱり諦めて佐伯の嫁になります。だから、週だけ私にをください』ってね」
父親は、しぶしぶそれを認めたという。 親戚が留守にする、の連休の数。 子は、実のれに閉じこもり、事も取らず、もせずに形作りに没した。
「子は狂っていたよ。締め切りが迫るプレッシャーと、これで自分の芸術としての命が終わるという絶望で、完全に正気を失っていた。美濃から取り寄せた雁皮を裂き、貼り、をねる……その指先には、槙野子のすべてのが注ぎ込まれていた」
杉本さんの声が、微かに震え始めた。
「……異変が起きたのは、最終の夜だった」
私の喉が、極度の緊張でカラカラに乾いていた。