"長女にだけ渡された鍵" 第19話
の慟哭が、狭い部を満たしていく。
私は、ローテーブルのに置かれたカセットテープを、じっと見つめていた。
胸の奥にあった、あの煮えたぎるようなりが、議なほど静かに鎮していくのをじていた。 許したわけではない。 分の奪われたは、どんな謝罪の言葉を並べられたところで、決して埋めわせることはできない。
だが、あの神聖侵だった「厳格で、絶対な父親」は、もうどこにもいなかった。 そこにいたのは、自分のさに怯え、子どもを盾にして震えていた、けないの老だった。
怪物がんだのではない。 最初から、怪物などいなかったのだ。
私はちがり、押入れからさな茶封筒を持ってきた。 あの夜、根裏から持ちした、通の命保険証券の控えだ。
それを、ののテーブルに置いた。
「……何、これ」 健が赤く腫らした目を向けた。
「父さんが言ってた、保険証券よ」 私は言った。 「保険、百万ずつ。計千百万。父さんが須藤から借りた百万は、この保険の払いに使われてた。……証券は私が預かってた」
が息を呑んだ。
「ち退きの補償は千万円入るわね」 私はの目を見て、淡々と言葉を続けた。 「そこから須藤への返済百万を引き、税や諸経費を清算すれば、元に残るのはざっと千百万。
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それにこの保険の千百万をせば、千百万円になる」
健と織が、息を止めて私を見つめている。 かつてのように、を奪いおうとする目ではなかった。 ただ、その巨額の現実をどう受け止めていいか分からず、怯えている目だった。
「等分よ」 私は言った。 「、百万円。……円の狂いもなく、法律通り、きっかり等分にする」
「姉さん……」 健が震える声をした。 「でも、姉さんは相続放棄を……」
「まだ庭裁判所に類はしてないわ」 私は自分のバッグから、あの『相続放棄申述』を取りし、の目ので真っつに破いた。 ビリビリと、の裂ける音が部に響く。
「放棄して、あんたたちに押し付けて逃げるのは簡単よ。でも、それじゃ私も、あの男の敷いた『割をう女』の役割から抜けせない。……私は、私の正当な権利として、百万円を受け取るわ。父さんからむしり取られた私の分の、切れとしてね」
私は破いた類をゴミ箱に放り込み、に向き直った。
「その代わり、に条件がある」
「何……?」 織が掠れた声で尋ねる。
「今この瞬から、族ごっこはおしまいにすること」 私の声は、く、しかし揺るぎなかった。 「健、あんたは『優秀な弟』を演じるのをやめなさい。プライドを捨てて、ハローワークへきなさい。百万あれば、借を返しても元にが残る。
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の丈にったアパートを借りて、自分のい扶持を自分で稼ぎなさい」
健は唇を噛み締め、く、く頷いた。
「織、あんたも『な妹』をやめなさい。実が取り壊されたら、もう誰もあなたの面倒を見てくれない。百万を元に、職業訓練でも専学でもきなさい。歳なら、まだやり直せる。自分のでちなさい」
織は両で顔を覆い、しゃくりげながら、何度も頷いた。
「そして私自も」 私は自分の胸にを当てた。 「『しっかり者の女』を完全に卒業する。これからは、あんたたちが借を作ろうが、野垂れにそうになろうが、私は切助けない。保証にもならないし、の無にも応じない。たまの正に集まる必もない。……私たちは今から、ただの、赤のになるのよ」
突き放すような言葉だった。 だが、その言葉をにした瞬、部のに満ちていた苦しい空気が、ふっと軽くなったような気がした。
血の繋がりという名の、錆びついた鎖。 それを、互いので断ち切る瞬だった。
健がゆっくりとをげた。畳に両をつき、々とをげる。 「……すまなかった、朋美姉さん。今まで、全部押し付けて……本当に、悪かった」
織も、震える肩を抱きながらをげた。 「ごめんなさい……お姉ちゃん。……ありがとう」
私はそののを、撫でることはしなかった。
ただ、めた麦茶をみ、静かに言った。
「片付けにきましょう。実の解体事、来週からでしょ」